11月26日 高円寺円盤
 いつもどおりの横柄な姿勢で「過去にも未来にも究極の芸術家川染喜弘、お前らおいしいぞ!六万円払え!」と宣言する演奏からライブスタート。
 「俺はいま完全に追い込まれているんじゃ!」といって一刻も早く評価することを客に要求する。「ま、何もしないですけどね。こうやってだらっとしてるだけで、評価してほしい。」と言いながら、ポーズを千変万化させ「美術手帖オッケーイ」「ユリイカオッケーイ」など思いつく限りの美術雑誌に自分を載せるように要求。「いますぐ電話しろ!今すぐmegoに電話して俺を評価させろ!」「お前らの何倍も才能がある俺がなんでこんなに追い込まれとんのじゃ!お前らが追い込まれろ!」「おれはもう30歳だ!」「なんでバイト代とは別に音楽の収入を母親に報告せなあかんのや!」
 ラップ。寒いギャグを言います、といって実際に寒いギャグ(ラーメンマンの叔父はタンメンマン)を言った後、「別に笑いが取りたくて音楽やってるわけではない。お前らはデレクベイリーを聴いてアハハとかウフフとか思うのか?」と客に啖呵をきる。
 ラップ中に、客に「何か言った?」と突然たずねる。「ライブ中に幻聴を聴いてしまう男!どうよ!」と言いながら何度も繰り返す。
 音楽とファッションは結びついている。ヒップホップを究極的に極めてしまった川染喜弘のファッションにキッズたちが従うべきである、といって、ギタースクールの講師の形態模写をしながら講義開始。「髪は短く。髪の毛が長いと演奏中に汗で体に張り付き、演奏の妨げとなる。髪を長く伸ばしていいのは、髪の毛を使って前衛的なギター演奏をする人間だけに限る。」「服は無地が相応しい。自分の音楽に意味を含ませるようなバンドTシャツやどくろなどはNG」「ズボンは拾ってきたものだけをはく。二千円以上出してズボンを買うくらいならディストーションを買え。」「靴も拾ってきたものが好ましい。」「靴下も拾って、そのお金でピックを買えと言いたいところだが、靴下は99ショップで買ってもよい。」「なお、拾ったズボンや靴を履いているときに、Tシャツがカートコバーンになることだけは絶対に避ける事。過剰な意味が発生する」
 意見に同意してくれた客とハグしながら、『宇宙!宇宙!』と叫び、去り際にポコチンを叩き、「この人船にのって来てくれたのよ。八人兄弟の末っ子でみんなに食わせる米買うために働いてんのよ。」と客の人生を勝手に変更する。他にも「この人痴呆症なのよ。彼もまた船で来てくれてんのよ。」「この人、カヌーにのって九州から来てくれてるのよ、普段はみずほ銀行で働いているということで……」など。
 金属性ボウルをトンカチで叩きながら、「自分の演奏が楽しめないのは君たちが楽しまないからだ。自分の演奏力の問題ではない。根本的に想像力が欠如している」といって、音の聞き方を必要以上に仔細に説明する演奏。「シェーンベルクのタイム感で聴いてくれよなー!」「自分から楽しまないと一切面白くないぜ!楽しんでんのかー?」と客を煽る。
 金属製ボウルの取っ手部分をトンカチで叩くことによって、ボウルがはねる現象を「チョップ」と名付け「新たなシーンを作るためには造語が必要だ」と言って自分の演奏行為に全てジャンル名をあてがっていく。金属製のボウルを叩く行為一般は「ボウルタッピング」と呼ぶ事に決定され、先ほどの無地のシャツの代わりにボウルタッピングがデザインTシャツを着る事も提案される。「チョップ」の時のボウルの軌道と音を異様なスローモーションで再現する。ハードコアのリスナーがスケボーをやるように、現代美術やサウンドアートのリスナーが「ボウルタッピング」をする文化を築くように示唆する。「サンドリバーブ」「メディアゴリ押しング」といったさまざまな技が披露される。
 にせ現代音楽としか形容できないピアノを弾くのが特技だという川染によるピアノ演奏。「サティが来日したと思って聴いてくれー!」十分ほど演奏した後に、「チョップ」をし、客を煽る。また、「チョップ」をしたのちに客をダイブさせる。
 再び、「自分は追いつめられているのだ」という旨の激しいヴォイスパフォーマンス。
 川染がにせ現代音楽ピアノ演奏、客の一人が「チョップ」、客の一人がダイブする。
 トイレに行くのが恐かった幼少期のカバー。母親に「おるよ」と言ってもらえなければトイレに行けなかった、という説明をし、客にマイクを渡し、「おるよ」と言い続けてもらう。川染さんは「おかあさんおるの?」と尋ねながらトイレに向かっていく。トイレの中からも怒号のように「おかーさーん!」と叫び続ける。
 サンプラーに入れた動物の鳴き声だけを聴いて何の動物かあてるクイズ。
「定型文ラップいこうか」といって「限りなく小さいコンセプトの中にこそ、一見情けなく見えるもののなかにこそ、一見稚拙に見えるもののなかにこそ本当の芸術は存在する。お前の心にコンプかけろ!」ライブ終了。


戻る inserted by FC2 system