3月30日 六本木スーパーデラックス
 ガレー船の奴隷のように、シールドとマイクを足に絡み付かせて引きずる『足枷』状態で入場。演奏位置まで静かに移動する。サンプラーからビート。
 定型文ラップ、『一分一秒命懸け』『明日、いや、このあとすぐ死ぬ可能性もゼロではない』『ライブの楽しみ方』『おまえらはラッキーだ。この川染喜弘に出会ってしまったのだから』のたたき込み。今日の後韻は『かしこ』と『ゴリ押しで感受していけ』。「六本木ヒルズが突然倒れてくるかもしれない。そうしたらおまえはぺしゃんこだろう、かしこ。それに、六本木でふくらはぎが肉離れを起こして死んでしまう可能性もゼロではないんだ。かしこ。ヨッケー、一分一秒ハッピーに行こうぜ渋谷ァ!」
 スティールパンをその場で制作する音をディレイをつなげたコンタクトマイクからアンプリファイする演奏。ディレイのフィードバックが修正できず、金槌一発叩いただけでチャンスオペレーション的に激しいノイズが発生してしまう。修正しようとすればするほどノイズが不連続に演奏されてしまう。
 金槌生音で、煎餅缶を叩きスティールパンを完成させる。それを不安定なスタンドに乗せようとするが、ことごとく落下する。それを受けて、「本当のミニマルミュージックを叩きつけてやる!」といって、自作スティールパンを拾っては乗せ、落ちては拾いしながら激しいラップを繰り出す。やがて、落ちた自作スティールパンをダイビングキャッチしながら七転八倒し、高く掲げて「とったぜ!ショウイチロウ(かな?)!」と叫ぶミニマル演奏に変容する。
 自作スティールパンを叩きながら「これは微分音なんだ!やばいんだよ!」と主張し、ライブ終了後に「微分音聞き取れなかったっすよ!川染さんの微分音マジでやばいっすね!」と話し掛けるよう要求する。
 「タイムセールでみかん詰め放題100円、と親切に教えてくれたおっさん店員に、『あそこに詰まっているみかんも100円だが、あれは何個入っているの?』と尋ねたら、『え、それは自分で数えてよ』と不躾に対応された」というエピソードを何度もつまずきながらラップする。スイングの構造に言葉をはめ込む『スイングラップ』。リズムにはめ込まれて区切られた発声によって、みかんのエピソードに吉増剛増の詩の朗読に似た異化が起こる。ついにエピソードを話し終えると、マイク両手持ちで激昂して叫ぶ。『かしこォ!』と叫ぶ瞬間もあった。
 「次のコンポジションは……これよ」といって、テニスボールをステージに放り投げる。「おまえらテニスボールの中身見たくはないか?用意しちゃってるぜ!」といって喜悦の表情で刃物を取り出す。テニスボールにコンタクトマイクを装着し、切断音をアンプリファイする。もう少しで切開という段に漫画的動きと声で、客に背を向けながら「見せてあげないもんね〜!」と叫ぶ。これも反復される。「キャラと違う恥ずかしいことをする。俺の音楽はもう何周もしてそこまで来ているんだ。見せてあげないもんね〜!」切開したテニスボールを客に見せ、ダイブし、ゴールを決めた武田→カズ→外人選手(膝をついて十字着る人。度忘れしました!誰か教えて!)のアクションで喜びまくる。「Jリーグを通過した男にしかできない」
 「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ」を何度も繰り返し発声する前衛ヒップホップのネクストステージ。「俺にプロトゥールスは必要ないんだ!カット、ペーストは肉体でできるんだ!俺という究極の磁場を通過することによって、フィルタリングされるんだ!」
 突如、縞柄ズボンとパーカーを着込む。その間も「かえるぴょこぴょこ」を発声し続ける。コンタクトマイクを電動毛玉取りに装着し、着込んだ服の毛玉を取る音をアンプリファイする。時間をオーバーしてしまい激しくテンパりながら「かえるぴょこぴょこ」を仕舞までたたき込んでライブ終了。

3月31日 高円寺円盤
「おい、やめろよ、大丈夫だって、心配すんなって、行かせろよ」と透明人間の激しい制止を振り切って会場に登場。足を床に擦り付けながら演奏位置まで移動、椅子に座りテレコからビート。マイクを握った瞬間過剰な親しみやすさを前面に押し出してラップ開始。定型後韻「ゴリ押しで感受していけ」と芸術理念に関するラップを叩き込み、今回の後韻が「敬具」であることを告げながら前面へ前面へと身を乗り出していく。
 「オーラバード」と技名を連呼しながらカセットテープのケースを破壊する。「残影拳」「クラックシュート」も使用して、ケースを粉々にしていく。ケースの破片をカウベルの中に注ぎ込み、チラシで蓋をしたものにコンタクトマイクを装着してアンプリファイする演奏。「いいか、俺のカウベルかしゃかしゃは俺にしかできないんじゃ!お前らにできると思うなよ敬具」非常に間抜けな動きでカウベルを振り続ける。
 本当に「川染喜弘のかしゃかしゃ」が、川染喜弘独自のかしゃかしゃであって、誰にも模倣できるものでもないのか、ということを前衛オペラ、物語形式でレクチャーする。「博士……あの川染とかいう男が言ってることは本当なんでしょうか」「どうだろうな……実は、彼にお饅頭を二個渡すことで協力に承諾してもらい、彼のカウベルの音を録音することに成功したんだ。そのときのライブ映像がこれさ。」といって、先ほどの間抜けな動きのカウベル演奏を反復する。「そして、それを波形にしたものがこれだ」といって極太マッキーで紙に波形を描く。「そして、私自身が『オーラバード』と叫びながら破壊したカセットテープのケース――このカセットもダイソーで購入したものだが――をカウベルにいれ、チラシで蓋をしたものをかしゃかしゃしてみた。その波形がこれだ」先ほどの波形の下にほぼ同じ波形を描く。途中「オーラバード」に関する注釈が盛り上がりすぎ、物語が脱線の一途を辿る。「餓狼伝説2は発表当時、ストリートファイター2のパクリであると騒がれた。しかし、snkの製作陣は画面に奥行きを導入することでストリートファイター2との差別化を図ったのさ。それにしても……餓狼伝説の主人公はテリーボガードだというのに、お前はアンディを選択するとは、邪道だな!」「きっさまー!俺が誰を選ぼうと関係ないだろうが!今ので完全にやる気をなくしたぜ……!」とどんどん剣呑な空気になっていくが、「和解しよう」「わかった」の二言であっという間に丸く収まる。
 再び、波形に関する博士と助手のやり取りが始まる。「しかし……これによって川染のカウベルしゃかしゃかが彼自身の独自のカウベルしゃかしゃかではないということが証明されましたね、博士。どうでしょう、ここで波形のこの部分をカットペーストして、先頭の部分に重ね、左チャンネルだけディレイさせたり、パンニングさせてみては……」「君はそうやってすぐ波形を見るとミュージックコンクリートを作りたがるがな、私が音響の研究をしているのはミュージックコンクリートを作るためじゃないんだよ!」と激昂して再び大喧嘩する。すぐ和解する。博士の研究室に川染喜弘が登場し、波形の検証結果を突きつける。「どうだ、これで君の波形と私の波形が同じである以上、君の音は君自身の音ではないだろう」これに対し川染はふてぶてしい態度で「僕は、そうは思いませんねぇ」と答える。博士は声を荒げて「ふざけるな!この波形はすでに学会にも送られて、同じ音であることが証明されているんだ!なぜ認めないんだなぜ君は頑ななんだ!」「(馬鹿にしたように)失礼させていただきますよ……」川染さりし研究所で博士が悔しそうに「……あの野郎」
 場面変わって、突如現れた男(博士の友人か師)がタバコをふかしながら「音響の研究ははかどっておるかね、村崎君。」「ええ、ついに五秒でサンプラーを作れるようになりましたよ、東急ハンズの材料でね。……しかし、僕はサンプラーよりも研究しなければならないことがあるんです。それは波形です!」「フーム、君はまだあの波形編集ソフトを使っているのかね。それより私がベンドしたこのソフトを使いたまえ。このソフトは波形の奥に潜む霊長類を観測できるものだ」(ソフト名が秀逸だったのですが忘れました。)男のソフトで川染喜弘のカウベルしゃかしゃかを波形化すると、波形を超えた波形、図形楽譜のような波形が現れる。そして、博士の波形は先ほどと同様、波形以上でも波形以下でもない、波形だ!「あの男、こんな波形を出してやがったのか」「ああ、そうさ。ご存知のとおり、私はタイムマシンに乗って西暦4008年から来た者だが、4008年の波形編集ソフトは音色の奥に潜む音色まで明るみにするのさ。さあ、コーヒーを入れてやるから飲みたまえ」といって、高速でコーヒーいれる→振舞う→飲み干すをアクションで表現する。「貴様、コーヒーに睡眠薬を入れやがったな!」「何を言う、コーヒーには睡眠薬だろう。これからお前にはぐっすり眠ってもらい、改造人間になってもらう。そしてタイムマシンに乗って4008年に来てもらおう!」「いやだ!行きたくない!」「よし、4008年のいいところを教えてやろう……。『馬刺しがうまい』だ!」「俺は馬刺しが嫌いなんだ、行くはずないだろう!」「4008年の競馬は凄い。4000頭同時に走るんだ。実に当てにくいと思わないか?さあ、4008年に来い!」「いやだ!」「4008年の馬は足にギプスをはめてより速く走ろうとするポジティブな馬なんだ。さあ来い!」
 「いやだ!」押し問答が続く。突如物語を中断し「……(図形楽譜的波形を指差しながら)というようなことを念頭に置いた上で俺のライブを感受しろ!」 ポストに投函されるチラシに対し、怒り狂うのではなく、それをメールアートと捉え、チラシの文面を発話していく演奏。「チラシに対して愛でもって接するんだ!」
 プロフィールにも記載されている「身体表現をも演奏行為と捉え、表現」に関する詳細なレクチャー。「俺の身体からは音が発生しているんだ。たとえば、ライブ映像の音をカットしてもそこには音が発生しているんだよ。音楽って暴力だと思わないか?耳から入ってくる情報は遮断できないんだ。目覚まし時計は音で起きるだろう?絵画や彫刻で目を覚ますやつはいないよね?そういうことなんだよ。しかし、俺の動き、モーションからは音が発生している。俺がたとえばこのように足を動かしたとき、音楽の諸要素がそこに含まれているんだ。俺のライブは具体的すぎてメッセージ性が強いよね?君たちの心を苦しめることもあるかもしれない。そういう時は耳栓をしてしまえばいいのさ!そして、身体の動きを聴け!俺のライブは具体と抽象の間を自由に行き来できる仕組みになっているんだから!」などなど、アクションも交えつつ語りまくり、突如、マイクをおろし目を見開いて天を仰ぎながら「めちゃめちゃ理にかなってるわー!」頭を抱え込み自分の発した言葉に感動するようにして「理にかなっている……」
 身体の動きだけで客が盛り上がるべきである、といって将来的に赤坂ブリッツでライブする時の様相を演じる。が、脱線して黒夢のライブに変わり、清春の名前を呼び続けるファンの形態模写を反復演奏する。サンプラーから4000人の歓声を流しながら、表情を千変万化させる。「川染さんの音やばかったよな、機材なに使ってんだろう。途中パンニングされた瞬間真ん中にいたからぶっとんだぜ!デモテープ送ろうかな」などとライブ会場から興奮冷めやらぬ様子で話し合う若者の形態模写をする。
 続いて、椅子に座ったまま、仏のように片手をかざし、正面を向いたまま指だけを動かす演奏。照明をちかちかさせながら静謐な川染喜弘が指の動きだけで研ぎ澄まされた身体表現を繰り出す。「わかるよね。この演奏はやばいんだよ。そして、サウンドレコーディングマガジンの次の表紙は(片手をかざし正面を向いて)これなんだよ。そして、インタビュアーは俺に尋ねるだろう。『川染さんはいったい、どのような機材を使っているんですか』と。おれはこう答えるだろう。『……(親指で胸を指し示しながら)バイブレーションだ。』」
 激しいラップを繰り出しながら、サンプラーを演奏する。その最中、荷物から飛び出してきた木琴を見て絶叫しながら「伝えなければならないリリックで溢れかえっている!時間が足りない!やらなければならないコンポジションがまだまだあるんだ!」と言う。客の肩に突起物を装着し、その突起物で木琴を演奏する。「マッサージを兼ねて音も聴けるんだ!これは気持ちいいし、心地いいだろう。マッサージを兼ねた演奏は本当の意味で現代音楽だし、やばいよね!」といいながら客の肩をほぐしながら演奏する。「朝まで行こうか!」
 「最高の芸術に立ち会ってくれてありがとう」といって、サンプラーから激しいノイズ演奏をしつつ、駄目押しの定型ラップ「お前たちの知人はこれからもどんどん亡くなっていくだろう。」を叩き込んでライブ終了。



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