5月17日東中野SOUP
 ハイヒールを履いた川染喜弘が、コサックダンスする際に発生する音をSEにして入場。ステージに到着するまで、執拗にコサックダンスしつづける。何度もハイヒールが脱げ、吹っ飛んでいったが、その度に拾っては履き直し、コサックダンスを続行する。ステージ到着後もしばし無言でコサックダンス。折を見てマイクを拾い、一曲目終了、ラップ開始。サンプラーからビート。「川・染・喜・弘です!今日も素敵なコンサートにしちゃってこうと思っちゃってます!」
 外人の客が半分以上を占める、という特殊な状況下にあって、急遽客の一人をステージに引っ張りこんで同時通訳するように強要する。(壮絶な翻訳合戦がレポ不能なんですが、めちゃめちゃよかったなあ!とりあえず川染パートだけ。)
 「おい!(自分を指し示して)ジャパニーズ!(翻訳者を指差して)イングリッシュ!ジャパニーズをイングリッシュにだ!通訳ってなんていうの?え?トランスレイト?ヨッケー!ジャパニーズをイングリッシュにトランスレイトしろ!トランスポートするんだ!いいか、まるで釣り人のように……(翻訳しろの意で)セイ!釣り人だよ!(困惑する翻訳者)トランスフォームするんだ!……フィッシャーマンだ!ライク・ア・フィッシャーマンだ!釣り人のように!釣り人のように、気長にやれ!釣り人は焦らないだれう。晴れ渡るのを待ち続ける!セイ!トランスレイト!ノー!シッダウン!(座ろうとする彼に)スタンダップ!(立とうとする彼に)シッダウン!(座ろうとする彼に)スタンダップ!(立とうとする彼に)シッダウン!」翻訳者を置き去りに、次のコンポジションの準備する。「この『もたつき』もおれの究極のサウンドパフォーマンスアートだってことを忘れるな、セイ!(翻訳者、サウンドパフォーマンスアートが英語だと抗議)違う!(自分を指し示して)ジャパニーズ!(翻訳者を指差して)イングリッシュ!」
 段ボールのうえにバナナを置き、ピックアップを段ボールに貼りつける。と、猛然とバチでもって段ボールを殴打しまくりながら「安いよ安いよ、バナナが安いよ!今日はバナナが安い!おい、翻訳しろ!トランスレイト!バナナが安い!このバナナ、(手に取って一つ一つ数えながら)ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ。一本100万円でなんと一房500万円の大特価!安すぎる!今日フィリピンでもぎ取ってきたところのこのバナナ、実は現地では6億円の価値があります!セイ!桃色の皮膚をした巨大猿との格闘の末に手に入れたこのバナナが500万円!おっとそれだけじゃあない。この皮はダイヤでできているし、メキシコから密輸されたワインに隠された宝石もへたの部分に仕込まれているんだ!(段ボールを打ち据えながら)安い安いよ!おれは金がないんだ!仕事の日数を減らしてくれ、セイ!一房500万円のバナナ、大安売りだ!」
 逐一なされる翻訳に味をしめ、ベッドルームトークを展開する川染喜弘。
 「愛してる、愛してるよハニー。セイ!あなたはいつだってそう言うけど、ちっともあたしを愛してないわ!セイ!一緒にバスルームで愛し合おうじゃないか。セイ!いやよ、いやよ!あんたはあたしを欺くんだわ、この裏切り者!セイ!おいおい、落ち着けよハニー。セイ!子供たちがきたわ、この話はやめて……セイ!」
 翻訳される間、英語にあわせて体や表情を巧みに動かす。バナナの叩き売りにダブ処理をかます。「おまえら、ダブ好きなんだろ、セイ!」
 突如バック・トゥ・ザ・フューチャーの日本語吹き替え版を演じはじめる。もちろん、翻訳させる。「僕だよ、僕。ドッグ!ドッグ!聞こえてるのかいドッグ!僕だよ!」「(バック・トゥ・ザ・フューチャーのテーマソングの節で)パーパーパー、パラパーパーパパー、パラパーパーパーパーパーパーパラパー」「いいか、よく聞け。お前の父さんと母さんが出会わなければお前は生まれることができないんだ!」「(だみ声で)教えてやろう、おれはお前の親父を安い賃金でこき使ってたのさ!」などなど。
 ミニカーの上にテープレコーダーを乗せ、そのテープレコーダーからはテクノミュージック。「わかるか?おれはいま、音量をあげすぎて音漏れしてる車のカバーをしている。セイ!ズンズン言わしながら車にのってる不良たちがいるだろう。あれは究極のサウンドパフォーマンスアートだと思わないか?セイ!」ミニカーをゆっくり走らせる川染。もたついてマイクを近付けたり遠退けたりすることが、結果、不良の車らしいリアリティあふれる音を醸し出す。
 再びバナナの叩き売りをしながら、アメリカの男女を模したベッドルームトーク、バック・トゥ・ザ・フューチャー。ベッドルームトークの盛り上がりに、女翻訳の必要性を感じた川染が、めざとく発見した女外人に「ヘイガール!」と叫ぶ。ライブに引き込もうとするが、女はよく理解できなかったのでバナナを奪って逃げていく。それを糾弾する川染&翻訳。が、最後は「愛してる、愛してるよハニー」 ミニカーを走らせるコンポジションに戻り、「これを究極の電子音楽と捉えてほしい」と主張。「もちろん、これでダンシングしてくれたって構わないのさ!」といいながら「アイハブペン!」を連呼する。客を巻き込んでの「アイハブペン」コール、「アイライクテニス」コール、「アイハブコーク」コール。会場中の外人さんのほとんどをステージにあげ、一人一人に洋楽バンド名と役職を与える。「プライマルスクリーム、ギター!ティーンエイジファンクラブ、ベース!エアロスミス、ドラム!キングクリムゾン、ギター!スペシャルユニットでお届けしちゃってます!アイアムペン!アイアムペン!」
 「アイアムペン」コール。
 ライブ中ずっと翻訳をしていたかたを讃えてライブ終了。彼MVP。

5月26日 高円寺円盤
 入場SEは無し。サンプラーから普段よりかなり激しいビート。猛然とラップ開始。全身を前後に大きくゆすりながら、床に足を叩きつける。「川染喜弘です!今日も高円寺円盤、素敵なコンサートにしちゃってこうと、思っているのじゃ!というわけで、本日の前衛ヒップホップの後韻は『仙人』なのじゃ。語尾をすべて『じゃ』にすることによって全ての韻が踏めたことになってしまうのじゃ。ヨッケー行こう!おれのライブ、これから一時間ほど続くこのライブが、一見ユーモア極まりないものと捉えられてしまうかもしれない。しかし、そのユーモアの奥の!奥の!奥の!奥の!奥の部分にある、究極の芸術をごり押しで感受していってほしいのじゃ。お前たちは究極の芸術に立ち会っているのだから、ラッキーでハッピーにいっちゃえばいいのじゃ」
 「川染さん、いつも、毎回ビート違いますよね。いやー、正直ビートだけでいいっすわ、ハイ。ビートだけ聴きにきてますわ、ハイ。ラップとかパフォーマンスとかどうでもいいっすわ。このビートのみを聴きにきてるよなもんっすわ〜」
 「おいおい、次は何が飛び出しちゃうのじゃ?」と言いながら、紙を壁にはって文字を書き始める。「米2米2」で始まり、数字が羅列される。「前衛ヒップホップはついにここまできちゃっているのじゃ。ポケベルの文字入力を利用した、まったく新しいヒップホップなのじゃ。しかし!これが別に新しくなくてもいいのじゃ。もし誰かがこれとまったく同じことをやっていたとしよう。そのとき、おれは喜んでそいつの肩を抱いちゃうよね。『かぶってんじゃないの〜』なんていいながら。だから、結果的に新しかったらそれはもうけものくらいなんじゃ。」
 「ハーシュノイズを目覚まし代わりにして単車乗ってマフラーの音をアンプリファイ」という内容の文章を、何度も何度も発話する。途中BZの稲葉の形態模写が挟まれ、十分近く稲葉ボイス、松本ギターのボイスパフォーマンスを展開する。今回のライブは折を見て、所々BZが現れた。
 「今日も仕事仕事でコンポジションが用意できてないのじゃ」といって、かばんの中をあさる。そして、取り出したるは、バナナの皮。「今日用意してきたコンポジションはこれだけ!じゃ!」そして、バナナの皮を掲げたまま、目を見開いて歩き回る。「いいか。このバナナを生まれて初めてハードディスクレコーダーを見たときのような新鮮な驚きと共に迎えるのじゃ。いわばお前たちは4trMTRのピンポン録音しかしたことがないような状態だ。そんなお前たちの前に現れたこのバナナはハードディスクレコーダーと同じくらいやばいんだよ!ヤベー!シビー!カッキー!と捉えていこうぜ、渋谷!(と、いった後、BZ松本ギターを模したボイスパフォーマンス)なんて美しいんだ!」再び、バナナを掲げたまま、会場を歩き回る川染。ビートを消し、アクティングエリアの中心にバナナを置く。「いいか、いまお前たちは歴史の転回点に立ち会っているんだ。それを忘れるんじゃない。」一歩一歩、ゆっくりとしかし確実な足取りでバナナに接近していく川染。そして、バナナに右足が少し触れた瞬間に激しく転倒し、その勢いを利用してピアノを弾く。「バナナのすべりを利用してピアノを演奏する!バナナによって分解され再構築された現代音楽がお前たちに襲い掛かる!」といって、何度もバナナに向かう。そして、そのたびに横転、立ち上がるためにもたれかかる肘なども使ってのピアノ演奏。はだけたシャツ。悲嘆にくれるアクションを利用した演奏、その傍ら展開されるちょっと繊細なタッチのピアノ演奏など。
 ライブ中に客の中から弟子を募集し、同じ演奏をするように指導する。(自分が弟子になったのでレポ困難)「違う!お前、なめてんのか?芸術、まったく新しい芸術をやってるんだってことにもっと自覚を持て!そして満面の笑みでいけ!ハッピーでいけ!お前この後死ぬかもしんねえんだぞ!高円寺の古着屋で、このあと、いぼいぼの服試着しちゃって、全身貫かれて死ぬ可能性もゼロじゃないだろうが!」と、激しく弟子を叱責する川染と不出来な演奏をする弟子。果たして外から見てどうだったのかちょっと判断できないのでいろいろ省略します。二人目の弟子を投入し、「弟子1バナナですべる→弟子2バナナですべる→川染バナナですべる」のミニマルを展開していこう、と提案する川染。そして「すべったあとは、ポケベルのリリックの書き足しをする」とも。しばし、七転八倒しながら師匠と弟子による演奏が展開される。
 いったん弟子を客席に帰し、次のコンポジションへと移行する。高円寺円盤は線路沿いにあるので、中央線が通過する音がかすかに聞こえる。「円盤を理解しつくしたおれにしかできない演奏を今からやろう。いまから、『おれが電車を動かしている』と思い込んでもらうコンセプト作品を奏でようじゃないか。これはお前らが思い込まないことには成立しないのだから、思い込むべきなのじゃ」といって、客に背を向け、何か巨大なものを引っ張る姿勢になる川染。素晴らしい身体所作。なかなか電車が来ないので、時折ポーズを変化させるのだが、そのいちいちの姿勢が素晴らしい形(音)を成していた。五分ほど待って、電車を引っ張り通過させることに成功する川染。「オッケー、次は本来なら中央線であるところを、山手線にして動かしてみせよう」といって、新しい指示を客に送り、再び構える。電車が通過した瞬間その場に倒れこむ川染。「(疲弊して荒々しく呼吸しながら)電車動かすのだけでも結構しんどいのに、本来走ってない山手線を召還してしまったのだから、しんどいよね……。(やおら立ち上がって)次は高崎線を呼ぼうと思います!」再び、構える川染。しかし、高崎線ともなると相当しんどいのか、右腕がいかれてしまう(というアクションをする)。右手をブランとさせながら必死で電車を動かそうと尽力する川染。ついに通過する電車。と、成功した瞬間、「トルシエ」コールを要求する川染。「稲本」コールも。
 「ディレイしりとり」のコンポジション。「りんご」と発話した音にディレイをかませて反響が続いている間に次の答えを言わなければならないというしりとり。困ったときはディレイのフィードバックを利用して時間稼ぎができる。客としりとり。最初は普通にしりとりになっていたが、だんだん混沌としてきて、フリースタイルラップの様相を呈してくる。照明の点滅を支持し、ディレイかけまくった客と川染の掛け合いに、挿入される稲葉の形態模写。それを15分ほど演奏し、時間切れし、ライブ終了。

  5月27日 渋谷nest
 やや激しい変則ビートに、ラップ。「川染喜弘です!今日も最高のコンサートにしていこうと思っちゃってます!前のめりで感受していけ!オッケー、そう、今日の前衛ヒップホップの後韻は『前のめりで感受していけ』だ。お前ら前のめりで感受していけ。
 前衛オペラ『グリッジマン』開幕。
「犬にかまれて苦しんでいる人、猫にかまれて苦しんでいる人、虎にかまれて苦しんでいる人、羊にかまれて苦しんでいる人、世界中の苦しんでいる人をお前のグリッジサウンドで救ってみせるんだ、グリッジマン!」「いやだ!お前の指図はうけねえよ」「いや、お前は俺の誘いを断ることはできない。俺はお前の命の恩人なのだから。お前の胸の傷、それはお前が崖から落ちそうになったときの傷で、あの時お前を助けたのはこの吉田博士じゃないか」「そうだったな」「グリッジマンに、なれ!」「いやだ!」「なれ!」「いやだ!」「きさまー!……よし、わかった。時給を出そう」「なんだと?」「時給、1300円でどうだ?」「わかった、引き受けよう」「ただし、1300円なのは土日だけという条件つきではあるがな!」「ふざけるな!やめさせてもらう!」「おいおい、待て待て!その代わり平日はまかないをつけようじゃないか。どうだ、気は変わったか?」「まかないか。よし、わかった。なろう、グリッジマンに!」そして、むき出しの基盤にシールドをあてがってグリッジサウンドを発生させるグリッジマン。「今のお前はただただグリッジサウンドを響かせているだけ。グリッジポイントを、もっといいグリッジポイントを探すんだグリッジマン!そして、世界中の苦しんでいる人たちを救うんだグリッジマン!」そして、グリッジサウンドを出しながら、妻との関係性で悩んでいるおっさんを助けることに成功する。「グリッジマン、一勝目!」トルシエコール、稲本コール。しかし、反応が悪い。「トルシエコールしなかった人、家に帰ったら後悔しちゃうかもよ?ああ、トルシエコール、しておけばよかった。あの時、楽しんでおけばよかった……明日死ぬ可能性ゼロじゃないぞ!セイ、トールッシエッ!トールッシエッ!」
 アンプを激しく転倒させるアクシデント。「この生き様こそが究極のグリッジサウンド!そして、今日も最強のビートを用意しているのだから、お前たちはこれでダンシングしちゃえばいいのよ!」といって間抜けなダンスを披露する、高度なミニマル身体演奏。「『グリッジマン』踊れないかもしれないよね。確かに踊りにきーかもしんない。(激昂して)関係あるか、ボケが!突っ込んだったるわい!」といって激しく基盤にシールドをこすり付ける。
 「グリッジマン第二話」といって、グリッジマンのオープニングソングを熱唱。「第二話の敵は、バスケットボールを20個ほど所有しているおっさんだ。そして、そのおっさんの持っているバスケットボールのうち19個は子供から盗んだバスケットボールだ!あくどいよね!(客に)バスケットボール一個いくらすると思う?わかんないよね?2万円するのよ。じゃあ19個で何万円よ!(虚空を見つめて暗算する川染。しかしなかなか答えが出ない)(『38万!』という声が客からあがる)38万円だよ!悪党だよ!さあ、グリッジマン、お前のグリッジサウンドでおっさんを倒すんだ!」そのまま、グリッジサウンドのレベルアップをはかってその場でベンディングし始める川染。しかし、なかなかうまくベンディングできない。「やめよう。バスケットボール盗んだおっさんは保留しよう。第三話いっちゃおう。(激昂して)関係あるか、ボケ!突っ込んだれ突っ込んだれーい!」
 「バーに、マントを羽織った、目元まで隠れる帽子をかぶった男が一人……。こいつ絶対なんかしでかすでしょ!悪そう!そう、こいつはグリッジマン三人目の敵なんだ!こいつは、動物園の虎を盗んでしまった男だ。(檻を手でこじ開けるアクションをして)動物園の虎を(木材をかつぐアクションをして)盗んで(首根っこをつかんで)家に持って帰っちゃったのよ!。(檻を手でこじ開けるアクションをして)動物園の虎を(木材をかつぐアクションをして)盗んで(首根っこをつかんで)家に持って帰っちゃったのよ!。(檻を手でこじ開けるアクションをして)動物園の虎を(木材をかつぐアクションをして)盗んで(首根っこをつかんで)家に持って帰っちゃったのよ!(客に)一匹いくらすると思う!?38万円だよ!」
 ハーモニカを吹いて会場内を徘徊する。憂愁を帯びた表情で、会場の窓際に向かい、夜空にハーモニカの音色を響かせる。しばらくしてステージに戻り、限りなく切なそうな声で「グリッジマンのグリッジサウンドは、音もそうなんだけど、やっぱり彼そのものがグリッジサウンドだったんだと思うな。グリッジマンはいなくなったけど、僕はグリッジマンのグリッジサウンドを忘れることはないよ……(だったっけなー、この辺記憶薄いです)」
 ミニカーを使ったコンポジション。ミニカーの上になにやら音のするものを乗せて走らせていたので、何かのカバーだと思うのだが、なにぶん会場の音が聞こえにくくて何のコンポジションだったのかは判別できませんでした。
 紙に「渋谷↑」と書き、「交通標識や、駅の案内でこういう↑あるけど、(激昂して)アホかー!なめとんのか!(天空を指差して)渋谷は上にあるんかい!ちゃうやろ(水平方向に指を指し示して)渋谷はこっちだろうが!(天空を指差して)それとも渋谷は宇宙にあるとでもいうんかーい!オッケー、ならいいだろう、宇宙に入っちゃおうぜ!(絶叫)シーブヤ−!」
 しばらく宇宙と渋谷のリリックを反復してライブ終了。
 あと、終了後にカラオケで斉藤和義とBZ『孤独のランナウェイ』を熱唱したことも付記しておきます。ハーモニカを吹いて徘徊する男の名は、ミルコビッチ・ジョン・カビラ・ピッツァマルガリータ・マルゲリータでした。

5月28日 新大久保アースドム
 リズムマシンからビート。ボイスチェンジャー(多分)を使ったコンポジションを試みるが、会場が騒がしく何も聞こえない。「ちょっとね、微音系のコンポジションやってるんで、静かにしていただけたらうれしいのですが」しかし、相変わらず何も改善されるところがなかったので、マイクを投げ捨てて開脚しながら跳躍し、「音響戦隊グリッジマン、第8話!」と絶叫する。
 27日に続き、前衛オペラ『グリッジマン』が開幕する。
「第8話の敵を紹介しよう。第8話の敵は、コンタクトエフェクターのディレイを、楽器屋から盗んで、しかもその盗んだディレイを口に含んだまま決して出そうとはしないおっさんだ!これは悪いよね。盗むだけでも相当なのに、口に含んだまま、出さないんだ。取調べを受けているときも、盗みは認めるが、口に含んだディレイを出そうとはしない。そんなおっさんがグリッジマンの今回の敵だ。」
 音の出る鉛筆、トイペンシルの基盤にシールドを接触させ、激しいグリッジサウンドを響かせる。さらに半田鏝を使用し、トイペンシルをその場でベンディングし始める川染喜弘。しかし、分解してしまったために電池がはまりにくくなってしまい、電源が入りにくくなっている。しかもベンディングをすればするほど基盤が破壊されて、電池を入れても電源が入らなくなる。
 「どうやら、無理なベンディングで息を引き取ってしまったらしい。グリッジマンは死んだ!いやいや、死んでない死んでない。死んだのはトイペンシルだった。無理くりベンドをねじ込んでしまったがために、このトイペンシルは死んでしまったんだよ……(激昂して)関係あるかボケが!突っ込んだれや!」
 「トイペンシルは死んでしまった。しかし、対『コンパクトディレイ口に含んで出さないおっさん』戦は完全にグリッジマンの勝利なんだ!なぜかわかるかシューワシューワ。オッケー入ったね〜、本日の前衛ヒップホップの後韻は、『語尾にフェイザーエフェクトをかます』ことによって全部のリリックの韻が踏めちゃうという寸法なんシューワシューワシューワ。グリッジマンはベンディングに失敗しューワしたシュワ〜わけなんだシューワけど、なぜ勝利したことになっシューてしまうのかシュワ〜。それは、グリッジマンの生き様それこそがグリッジサウンドだからなんだシュー。(激昂して)関係あるか〜い!そう、いわば、生き様がグリッジサウンドなんだからシュワ、グリッジマンは究極のグリッジサウンドを出しているんだシュワシュワシュワ」
 「オッケー!それじゃあグリッジマンの勝利を祝してトルシエコール行っちゃおうぜ!セイ、トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!(反応が薄いので、いったんやめて)(大阪の女の子の声で)あんなー、うちもなー、トルシエコールめっちゃ恥ずかしかってんやんか〜。でもな〜、家帰ってな〜、なんであんときトルシエコールせえへんかったんやろ〜、ってむっちゃ落ち込んでんやんか〜。明日死ぬ可能性もゼロではないんやし、次は絶対トルシエコールしようって思ってんやんか〜。(通常の声に戻って)そういうことなんだから!セイッ、トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!トールッシエ!いーなーもとッ!いーなーもとッ!いーなーもとッ!いーなーもとッ!(再び大阪の女の子になり)あんな〜、うちな〜、ライブ行ったらな〜、みんな稲本コールとかしてるやんか〜。なんか恥ずかしくてでけへんかってんけどぉ、やっぱ稲本コールしといたらよかったなぁってめっちゃ後悔してるやんか〜。それにな〜、このあと新大久保の韓国料理屋で肉食いすぎて腹が破裂して死んでしまう可能性もゼロではないやんか〜。だったらな〜、稲本コールしたほうがいいと思うねんな〜。(普通の声に戻り)セイッ、いーなもとッ!いーなもとッ!いーなもとッ!いーなーもとッ!(いったんストップし、ためてから)(デスボイスで)トルシエー!!!郷に入れば郷に従えだ。ハードコアデスボイスバージョンのトルシエコール行っちゃおうじゃないの!(デスボイスで)トルシエー!!!トルシエー!!!トルシエー!!!」
「僕はライブハウスで9年間働いていましたので、望んでもいないのにメロコアにめちゃめちゃ詳しくなってしまったという経歴があるのですが、まあそのようにして、強制的にメロコアのほうも『極めざるを得なかった』僕が、まったく新しいメロコア、究極のメロコアを提示していこうと思います。その名も、『グリッジメロコア』!」
 シールドを基盤に突っ込んで、激しいグリッジノイズを発生させながら、メロコア的としか形容できない歌唱を展開する。グリッジと歌を一瞬止めて、同時に再開する『ストップ&ゴー』などのテクも飛び出す。ダイブ。
 「(大阪の男の子の声で)ありがとう〜。今日僕らのほかにもめっちゃかっこいいバンド出てはるんで、見てってください。次の曲、聴いてください。」まったく同じような曲を演奏して、「ありがとう〜。僕ら大阪では結構人気あるんですけど、はい、次の曲聴いてください」まったく同じような曲を演奏して、「(通常の声で)グリッジでメロコアやってるやつおるんかい!めちゃめちゃ新しいわ!次はじゃあ紙を千切る音でメロコアやってみよう。」
 ピックアップを雑誌に装着し、紙を引き千切る音をアンプリファイし、それをバックにメロコア的としか形容できない歌唱を展開する。「(大阪の男の子の声で)ありがとう〜。僕ら結成して十年目くらいになるんですけど、次最初に作った思い出の曲、聴いてください」まったく同じような曲を演奏する。
 やおら立ち上がって、ハーモニカを吹きながら会場を徘徊する。ミルコビッチ・ジョンカビラ・ピッツァマルガリータ・マルゲリータの登場である。バーカウンターでハーモニカを吹きながら憂愁にとざされるミルコビッチ・ジョンカビラ・ピッツァマルガリータ・マルゲリータ。コップを横方向にスライドさせながら「これをそこのお嬢さんに……」再びハーモニカ。「そのウイスキーの銘柄を見せてください。……なるほど。これをあとでください。」独白を始める。(それを観ていた客から野次が飛び、その野次が気になって何をしゃべってたのか思い出せません、すいません)野次に向かって「お前は知るということを知らないんだ!お前は知ることによってもっと幸福になる!お前は知らない!知らないお前は知ることで幸福になれ!」
 ハーモニカを吹きながらステージに戻る川染。「ミルコビッチ・ジョンカビラ・ピッツァマルガリータ・マルゲリータ……あいつ、どこにだって現れるぜ……」  サンプラーから蝉の音を出しながら「ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!ツクツクボーシ!どうもありがとう!川染喜弘でした!」



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