8月10日高円寺スタジオドム
 あわただしい準備の中ライブ開始「今日は40分しかライブ時間がない。こんな短い時間では、この川染喜弘という偉大すぎる芸術家のことをすべてわかってもらうことはできないだろう。今から自己紹介をすることになるが、おそらく自己紹介だけで持ち時間のすべてを使い切る可能性もあるだろう。その可能性はゼロではない!時間が足りない!」リズムマシンからはスティールパンの音を使った能天気なビート。「もう夏が始まっているんだ!だから、作ってきたぜ、夏のビートをよォ!」
 リズムマシンの調子が悪く、接触不良で電源が入ったり落ちたりする。「待とうよ待とうよ!ACアダプタの接触が悪くてトラブっちゃってるけど待とうよ〜!(黙々と作業するが、しかし黙っていられないで)このロウワーケースサウンド!この間を、リズムマシンが止まってしまって音が出ていないこの時間を、現代音楽の間として捉えてほしい!この研ぎ澄ましに研ぎ澄まされたもたつきを全力で感受していけ!」
 サッカーボールを取り出して、一人でサッカーをし、応援席の喧騒を声で表現する。「アーアーアー!ウォーウォーウォー!アーアーアーアー!」と叫び続けながら、ピックアップを装着したサッカーボールを蹴りまわす。サッカーボールに乗っかってバランスを取ったりもする。「がんばれ!川染サンフレッチェ広島インジケーターオシレーターモジュレーションラップトップミュージックMAX/MSPフィルタリングテープミュージック!」
 木琴でミニマル演奏。ぽこぽこ静かな演奏を展開するが、川染がすぐ飽きたのか「もう満足した」といってやめてしまう。
 メロコアのネクストステージシリーズ、英単語棒読みメロコア。「ザ・エキシビジョーン!」しか覚えてないが、メロコアのバンドに出てきそうな英単語をひたすら棒読みする。「稚拙に見えるか!お前らにできると思うなよ!研ぎ澄ましに研ぎ澄まされた稚拙じゃ!」と怒りながら棒読みメロコアを展開する。
 金属たわしでピックアップをくるみ、もみくちゃにする音をアンプリファイする。サッカーボールのコンポジションと、棒読みのコンポジションを複合して演奏する。サッカーボールに乗りながら、棒読みの英単語を吐きながら、サッカーの試合がどんどん展開していく。「解説のジョンカビラです。緊張した展開が続きますねー」サポーターの声を中心にサッカーの試合を展開していく。昂揚していく川染がボールを蹴り飛ばしながら「ゴールゴールゴールゴールゴール!インテリジェンスゴール!」と絶叫してライブ終了。

8月17日高円寺20000ボルト
 「川染喜弘です!今日ははじめましてのお客さまが多いので説明をしていこうと思うけど、ライブ時間が短いんじゃ!はじめましてのお客様には、僕の音楽が少々へんちくりんな音楽に聴こえるかもしれない!いこうぜ、渋谷〜!」といってライブ開始。ビート。しばらく前説的なラップで客を盛り上げる。筋トレの道具にピックアップを装着して身体を鍛える音をアンプリファイする。
 うまい棒をディジリドゥーにして演奏する。「いいか、おれはこういう音楽をもう十年やってるんだ!うまい棒をディジリドゥーにするのは受け狙いでやってるんじゃないんだ!考えてみ?やばいんだよ。ヤベーシビーカッキーイカチーんだよ!どうしてもにじみ出てしまうユーモアでもって、観客とのコミュニケーションを指向しているが、本質はそこではない。ユーモアの奥の奥を感じ取っていけ!」身体的な演奏が随所で展開。即興でリズムトラックを制作する。
 ラップ中にうまい棒を紛失する。モニター用スピーカーの下に挟まっているうまい棒を客が発見する。それをうけて、川染が限りなく稚拙で情けない姿勢でもってスピーカーをどかし、うまい棒を救出する。「なんとかなるじゃねえか!」と叫びながら、フロアーに飛び降り、見つけてくれた客と抱き合う。ストロボをたいて照明を落とし、踊り狂う。しばしの一人レイブタイムの後、再びうまい棒でディジリドゥー演奏。
 音響戦隊グリッジマン最終回。「グリッジマン、今日の敵は強敵だ。ボイスマシンをベンディングしてグリッジサウンドを発生させるんだ。そして、そのグリッジサウンドでもって犬に逃げられてしまったトドロキ博士を慰めるんだ!」と、演劇的なボイスパフォーマンスを展開するが、コードがリズムマシンを打ってビートが変わる。チャンスオペレーションに対応してグリッジマンを中断する。FMラジオから流れてきそうな四つ打ちのビートだったためか、「どうもクリスカプラーです」といいながらラジオMCの形態模写が始まる。ビートにあわせてか細い声でテクノ歌謡の即興演奏をする。「またいつもみたいに家に帰ってウジウジしてるのかい スポーツをやりなよ スポーツやってるやつに お前みたいなやついないぜ」というような歌詞を何度も反復して歌い上げる。ややあって、再びグリッジマンに戻る。その場でベンディングをする。激しいグリッジサウンド。なかなかグリッジポイントが見つからない。「ベンディング以前に電源が入らない!時間がない!」といいながら焦りまくった状態でベンディングする。ライブ終了一分前くらいにベンディングが成功する。「ベンディングが成功するまでの間にかなりもたついたかもしれない。しかし、そのベンディングが成功するまでの道のり、そのもたつきこそが真のグリッジサウンドなんだ!生き様の接触不良こそがグリッジマンの本質なんだ!もうグリッジマンがあなたたちの前に姿を現すことはないだろう。ありがとう川染喜弘でした!」

8月23日高円寺スタジオドム
 どしゃ降りの高円寺阿波踊りと同じ日のライブ。リズムマシンからビート、ラップ。「外も(阿波踊りで)めちゃくちゃ盛り上がってるけど、こっちはこっちでネオ盛り上がりしていこうぜ!渋谷!シュワワワワ〜(と、ボイスでフィルタリングの音を表現しながら)!オッケー、今日の前衛ヒップホップの後韻は、ラップの最後にフィルタリングをかますことによって韻が踏めてしまうという寸法シュワワワワ〜!」
 ゴムひものようなものを取り出し、客にその端っこを口にくわえてもらい、反対の極を川染がくわえる。ピンと張ったひも状のそれにピックアップを装着して指ではじくも音が増幅されない。どうやら、川染は持ってくるものを間違えたらしく、それはゴムひもではなく、単に細長い紙でしかなかった!「素材が違うじゃねえか!でも、ぜんぜんオッケーなんだよ!こんなやばい状況だけど、オラ、ワクワクすっぞ!」
 「今日は難解なコンポジションと比較的簡単なコンポジションを用意してきている。お前らどっちがいい?どっちのコンポジションが聞きたい?」と、客にマイクを向ける。客が総員一致で「どっちもやれ!」という意見だったのを受けて、大変嬉しそうに顔をくしゃくしゃにした川染が両方のコンポジションを披露することを承諾する。「まずはじゃあ、比較的難解ではないほうのコンポジションを演奏しよう。とはいえ、相当むずいぞ!?これはめちゃくちゃむずいぞ!?」と、自分のコンポジションがいかに難解であるかということを、《変拍子の最中で複雑に変わっていくコード進行のたとえ》で説明する。「微音系のコンポジションなんだからピリピリしてきいていけ!いいか、会場に集まった七人の勇者たちよ!あれっ、一人多いよね?それはこういうことなのさ!(と、突然一人芝居を開始して)おい、どういうことだ!一人多いじゃないか、この雪小屋にいつまで閉じ込められればいいんだ!もう人が殺されているんだぞ!」「おい、落ち着けよ」「お前らと一緒に行動するなんてごめんだね。おれは部屋に戻らせてもらうよ」「おい、犯人がどこにいるのかわからないんだ、個人行動はやめないか!全員が同じ部屋でいれば安全じゃないか!」この雪小屋連続殺人コンポジションがこれから三十分くらい続くのかな?と予感させたあたりで突然芝居を中断して軌道修正する。
 《丸の内を歩くサラリーマンのカバー》というコンポジションから開始。こっちが川染的には簡単なほうのコンポジション。4トラックMTRに革靴で歩く音を多重録音し、出勤中のサラリーマンの足音を再現する音響作品をその場で作り始める。まず、MTRの操作がうまくいかず、かなりもたつく。ハウリングが発生し、「今日はソニックユースがきてくれちゃってます」。MTRの録音準備を終え、録音用マイクを持って間抜けな姿勢で床を踏みしめる川染。1トラック目に録音された音をアンプから出力して確認するも、音色に納得がいかない様子。「床がコンクリートじゃなかった!正直、会場に入った瞬間《失敗した!》とは思ったんだ!いや、以前のおれだったらそのとき既に今回のコンポジションの演奏をあきらめて、床がコンクリートの会場用に後回しにしていただろう。でももうそんなの関係ないんだよ!床が木製だっておれはこのコンポジションを演奏するんだよ!オッケー行こう!」といって、2トラック目の録音。再びMTRの操作でもたつく。一回目よりもさらにふざけた姿勢で足を踏み鳴らす川染。3分近く足踏みした後、MTRに飛び込んでレックボタンを停止する。
 「録れてんだろうなー?こういう場合、録れてないことが往々にしてよくあるぞ!むしろ録れてない場合のほうが多いくらいだ!……どうなんだ?(MTRから二つの足音)オッケー!三人目のサラリーマンを召還しよう!」三回目の音録り。やればやるほどエスカレートしていく川染喜弘の身体所作はもはや丸の内を歩くサラリーマンの音からは逸脱し始めている。無限に続くような足踏みによって、すでにライブは40分近く経過している。3トラック目の録音の確認をしながら、ピンポン録音の操作をする。突然「スターダストレビュー、いや、スターダストのレビューをしよう」といって、録音状態の確認音をオケにラップを開始する。「夜空を眺めてごらん。暗闇にきらめくたくさんの星屑……星の輝きは何億光年も離れた恒星の輝きが送れて届いてきているんだ、そのプロミネンスの輝き……」などと星屑に関するレビューをしていると、そのレビューの昂揚に同期するようにして徐々にMTRの音が盛り上がっていき、突然ハーシュノイズが会場に鳴り響く。「おっと、アクシデーント。ありもののノイズテープに録音してたからその音がなってしまったらしい!」
 4トラック目の足音を録音し、残り時間に驚愕しながら、完成した音を聞いてみようというところまでようやくたどり着く。しかし、あきらかにMTRから聴こえてくるのはたった一人の人間の足音でしかない。どうやら録音は失敗に終わったらしい。しかし、再生を終えた川染が、「ハイ、大・成・功」といって間抜けに両手をひろげてみせたので結果的には大成功だったといえるだろう。
 「さらに難しいコンポジションが残っているんだ!さっきのより難しいのに、残り時間が5分ないぞ!?お前らいいのか?やってほしいんか?」と客をあおる川染。当然客は「やれやれ!」コール。例のコード進行のたとえを時間がないのに挟み込みながら、コンポジションの説明をする。《川染喜弘育成ゲーム》コンポジション。リアルたまごっち。客に音を出したり言葉を投げかけてもらうことによって川染喜弘が成長していくというもの。はじめ、川染は卵の状態なので、ピックアップで物質をこする音を聞かせて孵化させなければならない。極めて身体的な演奏。満面の笑みで音を聞く川染。川染が気に入らない音が出たときは、表情を漫画的に曇らせ、会場の隅っこに引きこもってしまう。しばらく客が演奏していると、川染がその場で横転して動かなくなってしまう。ややあって、立ち上がると、恍惚とした表情で羽根のごとく腕をくゆらせてその場で足踏みする川染。「川染喜弘は(音があまりよくなかったので)死んでしまいました!」この《育成ゲームのコンポジション》を二回、三回と繰り返しながらライブ終了。「この育成ゲームのコンポジションはやりたりないので、またやるつもりだ」

8月25日 高円寺円盤
 リズムマシンからスティールパンを使用した夏のビート。「オッケー、今日も夏ということでスティールパンをあしらったビートを用意してきてる。もうこれだけでいいんじゃないか、と思ってる。作ってきたんだから!本当はこれだけでも評価されなければならない」とラップ。「今日は、お客様がおれのライブを何度も見てくれている方たちばかりらしいので、前説は省略させてもらおう。普段は自己紹介だけでライブ時間が終了してしまうのだが、今日はお客様とのバイブレーションが、そう、お客様とはいわばエフェクターなんだ。エフェクターのつなぎかたによって音が変わるように、お客様との相互作用によっておれのライブはエフェクトがかかるんだ!さて、この究極の芸術家川染喜弘の自己紹介を今から少しだけするが、聞いて欲しい。《いやー、次も新しいネタ期待しているよ》と言われることが多いんだけど、ふざけんな!と。ネタじゃねえぞ、と。《新しい曲楽しみにしているよ》、これなら許そう。彼はごり押しの感受性でおれの音楽、アートを享受していることになるのだから。しかし、ネタ……ネタだと……(マイクをおろして肉声で)ガーッデム!まあね、その人の前では怒りませんけども、ごり押しで感受していけ!オッケー、今日の前衛ヒップホップの後韻はごり押しで感受していけだ、お前らごり押しで感受していけ!」
 「それじゃあ、新曲行っちゃおうか。あの、すいません、田口さんディレイお願いします」と、だるだるの白いTシャツを頭からかぶって覆面のようにする。照明を暗くして、ディレイのかかったマイクを使って、「シャー」とか「ファー」などと発話しながら怪しい動きをする。絶妙な間と動きで発話し続ける。空中を引っかきながら発話する瞬間などもあり大変よい音がでていた。五分近く暗い会場で静謐な演奏が続いた後、照明を明るくし、今回のコンポジションの総括を開始する。「いやー、やばかったねー、これは、めちゃくちゃむずかしいぞ!?いやー、すごかった。いうなれば、今日は伝説的な音楽作品の初演なんだから、まあ笑ってらっしゃったお客さんいっぱいいましたけど、まあ笑いはね、最高のサウンドだからいいけど、笑いながらもこうピリピリした緊張感とともに聞いて欲しい。それにしてもやばかったなー。いやあ、すごい。これ、昨日書き下ろした曲なんだよ。このコンポジションの曲名をお前らに教えてやろう。その名も《おばけ》だ!」過不足のない完璧な曲名に会場爆笑。「どうする?《おばけ》またいっちゃうか?」という質問が投げかけられたので、「あと13回行こうよ!」と返事してしまったのだが、川染が「13回?13曲だろうが!」とキレてしまう。そのあとすぐ笑顔になって再び《おばけ》が演奏される。次のおばけは、空き缶にサランラップとアルミホイルとプラスチックをかぶせたものをスティックで叩きながらの演奏。エコーががった声で「バチカン共和国!セイ!」といって、客との掛け合いミニマルが始まるが、今回はしつこいの直前くらいでストップ。「あわやトランスミュージックになってしまうところだった」
 「コンポジションコンポジション」といいながら、譜面台に楽譜を載せていく。前衛ヒップホップのネクストステージ、《テープコンプラップ》。MTRのコンプレッサー機能を利用したラップ。コンプレッサー機能をどう使ったのか、は音響機器に詳しくない僕にはいまいちわからないところがあったのですが、MTRを通してアンプから出力される川染喜弘のひずみまくった声が非常に良かった。「いやー、やばいよねー。テープコンプラップ。いまいち伝わっていないようだから、まあ最近のライブではよくやるんだけど、というのも、講義しないと伝わらない、伝わらないとナンセンスアートのフォルダーにぶち込まれてしまう、それが癪だから講義をするしかないんだけど……まあ、とにかく講義だ!」と宣言するも二秒後に「やっぱり講義するのやめようかな」といって、「講義するか、しないか。それを今から考えようと思います!」と放言する。ハーモニカを吹きながら、カーテンをあけ夜空を眺める川染。しばしハーモニカを吹いた末に、「やっぱり講義しよう」といって戻ってくる。
 「おれのラップにはどんな言葉があった?何が聞き取れた?」と質問されたので、先ほどのノイズまみれのテープコンプラップから辛うじて聞き取れた「電車にまきびしまいて」というフレーズを答えると、「電車にまきびし、そんなこと言ってたのか……電車にまきびし、意味わからないよね?確かに意味がわからないかもしれない。でも、おれは自分のラップのすべてにポジティブなメッセージをこめているのだから、それを能動的に感受しなければならない。たとえば、《ああ、そうかい》と。《おれはコークスクリュー打てたんかい》と。おっと漫画のサンプリングをしちまった。軌道修正しよう。《電車にまきびしを巻くのは危ないよな。そういう反社会的な行動をとることを川染さんはラップで戒めているんだな》と、このように言葉を深読み深読みしていって能動的に感受していってほしい」といいながら、講義をさえぎって再び猛然とラップする。別のお客さんに「何が聞き取れた?」と問う川染。川染の「ケルナグールをやりながら」を聞き間違えたのか「ケ、ケルト民族?」と答えるお客さん。「ケルト民族!?」とびっくりする川染に「ケルト民族って何?」と聞かれたので「別の大陸の民族」と教えると、「オッケー、《ああ、そうかい》と。《おれはコークスクリュー打てたんかい》と。まあこれは漫画のサンプリングですけども、《ああ、そうかい》と。《おれはコークスクリュー打てたんかい》と、おっとまたやっちまった。《ああ、そうかい》と。《おれ、上司のことや些細なことで落ち込んでいたけど、遠い大陸にいるケルト民族のことを考えてみろよ、と。自分とは違った価値観で生きている人間もいるというのに、自分はなんと小さい世界で悩んでいたのだろう、と。ケルト民族のことも考えていかなきゃな》と、このようにポジティブに捉えていってほしい」と総括する。
 このラップ記憶のコンポジションがしばらく続く。三回目ともなるとこっちも聞く姿勢が記憶モードに変わるというもので、川染の「アンプにポンポン、ポンポン菓子ぶちまけながら、ポン酢を村上ポン太秀一の頭にぶっかけて、その音をテープにピンポン録音してその音が劣化しちゃうのを、そう、烈火の如くプレイしながら、レッカー車にレッカーされながら」という内容のラップを、ほとんど正確に返答することに成功する。結果「彼の脳みそはi-bookなんだ!」と褒めていただき、そして「これがオヴァルプロセスなんだ!」というまったく関係ない〆をゲットする。しかし引用が長すぎたので、川染が改めてラップしなおした言葉の中から、「パートのおばちゃんがパトカーに乗って」という部分を伝える。「《ああ、そうかい》と。《あんなに真面目そうなパートのおばちゃんも道を踏み外してパトカーで連行されてしまうんだなあ》と。《でも、おばちゃんだっていつか務めを果たして帰ってくるだろう》と。《ああ、そうかい》と。《おれはコークスクリューが打てたんかい》と。《どんなに道を外してもいつかまた戻ってくることができるかもしれないじゃないか》と。《くよくよ悩むよりも、カムバックできるその可能性に賭けてみようじゃないか》と、このように、おれのラップにはすべてポジティブなメッセージが込められているんだ、オッケー、いこう!」
 前衛ヒップホップのネクストステージ《フランジャーラップ》。テープを二台使って、エフェクターを使わずにラップにフランジャーをかます演奏。しかし、その準備に相当もたつく。「このもたつきも計算されつくしたもたつきなんだ。現代音楽を聴いてて、ピアノとピアノの間の休符、そのときに《おいおい、もたついてんじゃねえよ》と言いがかりをつけるやつがいるか?いないだろう?そういうことなんだからゴリ押しで感受していけ」といいながら絡まったコードをほぐす川染。シールドが必要だったらしく、ずっとなり続けていたリズムマシンからシールドを引っこ抜く。当然、ビートは止まってしまう。「見たか……?さっきまであんなに元気に鳴っていたこいつが、シールドを引っこ抜いただけで黙っちまった。これだって深読みしていけ。そして、ネガティブに捉えないでくれ。絶対にポジティブなメッセージを読み取ってほしい!《どんなに元気だったあいつも、たった一瞬で黙らされてしまった……。人生何があるかわからない。中央線同士が拮抗するその狭間におれの身体が挟みこまれて死んでしまう可能性もゼロじゃない。ああ、そうかい。明日死ぬ可能性もゼロじゃないのなら、一瞬一瞬、一分一秒を真剣に生きていこうじゃないか》と、このようにポジティブに捉えてほしい!」講義が長引きすぎて時間に追い詰められた川染が、猛然とラップを録音し、フランジャーラップを実演したところでライブ終了。


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