10月9日 茅場町ギャラリーマキ
 企画者山下陽光さんとのトークショー、カニバリズムガンジーバンド時代の映像上映ののちに、ライブ開始。テープからビート。「今日は、山下陽光くんの展示会に呼んでいただいたので、かなりフリーキーな演奏をやらせていただこうと思う。こんにちは、川染喜弘です!そう、過去にも未来にも究極のライブに立ち会ったあなたたちはラッキーで、ハッピーなんだ!やったーやったーやったーやったーやったーやったー!まず、僕のライブを見るにあたって、『何か起こるんじゃないか?』という期待をすべて捨ててほしい。あなたたちはいま究極の芸術に立ち会っている!それを忘れないで欲しい。お前達に、香川で一番美味しいうどん屋を教えてやろう。まず、駅前にあるようなうどん屋。これはだめだ。香川で一番美味しいうどん屋というのは、○○郡の○○町(すいません、失念です)というマイナーな土地のさらに山のふもとにポツンとあるうどん屋、中村うどんなのだ!本当に、究極のうどんというのは、そういう場所に存在しているのだ。僕のライブもそういうことなんだ、究極のライブに立ち会えたお前達はめちゃくちゃラッキーじゃ!やったーやったーやったーやったーやったーやったーやったー!」
 ドラムスティックを使ってチャンバラする。山下さんにスティックを持たせ、川染喜弘vs山下陽光で「ヤーッ!」「ターッ!」などと咆哮しながら激しい剣戟の音を響かせる。「これは先週書き下ろした曲なのよ。もう《チャンバラ》でいいか、と思って、楽譜に《チャンバラ(ドラムスティックで)》って書いたものを今日初演してるんだよ。これはやばいぞ!(座って休憩していた山下さんを立たせて)おい立てやコラ!(再びチャンバラして)ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!(中断して)声が小さい!もっと腹から声出せ、腹から!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!ヤーッ!(中断して)気分が乗ってきたらヤーッ!以外の掛け声出してもいいから!」その後、しばらくチャンバラをしては中断→中断後即座に再開のミニマルが続く。
 ダンボールをつなぎ合わせて製作した電車に乗って、吉祥寺から渋谷までゆっくりと移動するコンポジション。山下さんが乗客として拉致され、この後ライブ終了まで電車から出られなくなる。「出発進行〜!(発車の汽笛を吹き)プ〜!ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。井の頭公園〜、井の頭公園〜。いいか、このコンポジションはこれから何も起こらないぞ!ずっとガタン、ゴトンで渋谷まで行くんだよ!何か起こると期待しないでほしい。しかし、この光景を風景画を眺めるようにごり押しで感受し、涙してほしい。お客様の笑い声は最高のサウンドなのだけど、僕はもう、僕のライブを見て泣いてほしいんだよね。(うしろの山下さんに)この電車の名前なんにする?(山下さんが『川染号でしょ』といったのを受けて)ま、そんな意見もありましたが、『微笑み号』出発進行〜!」
 お客さんの中から新規の乗客を得たり、明大前で乗り換えさせたりしながら、電車はゆっくり進むが、突如、電車がいったん停止し、乗客に「最近どうよ?」だとか「好きな食べ物ランキングBEST5!」を聞いたりする。「(5つの食べ物が出たあとに)10位まで行こうぜ!(10出ると)20位まで行こうぜ!(20も出ないうちに)100位まで行こうぜ!いや、もう200位まで行っちゃおうぜ!」突然ラップをする、と言い出して、川染だけダンボール電車から脱出し、バッグの中のリリック帳をあさりにいく。その間、乗客は待ちぼうけ。ややあって、電車内に戻ってきた川染がラップ。「お前の母ちゃん、バカすぎて、チョコレートで家建てちゃったよね!」その後、お前の母ちゃんバカすぎて、のラップをどんどん発展させていくのですが、素晴らしすぎてほとんど忘れました。途中で「お前の母ちゃん、利口すぎて!」に変わって「利口過ぎて、理工学部で文学勉強しちゃったよね!」などのリリックが飛び交う。
 電車が神泉に行く途中で急停止する。「車両トラブルのため、一時停止いたしマース」という業務的なアナウンスののちに、急に演劇的になった川染が「おい、どういうことだ?ちょっと車両を見てくるから、山下、お前はここで待っていてくれ」と怒涛の一人芝居を始める。「(だみ声で)どうやら、このタンクの中に、ねずみがいるらしい。ねずみは四匹いる。おい山下。お前に頼みがある。お前に、この4匹のねずみを退治してほしいんだよ。大丈夫、山下、お前ならできるって、相手はたかがねずみさ。さあ、このバズーカを渡すから、がんばれ!しかし、あらかじめ言っておかねばなるまいが、このバズーカには4発しか弾が入っていないんだ。つまり、一回の失敗も許されないんだよ。びびっちまったか?よし、そんなお前に、この(と、ポケットをあさりながら)ピストルも渡しておこう。しかし、よく聞け。このピストルは、実はおもちゃのピストルだ。このおもちゃのピストルでねずみを脅して、両手をまず挙げさせちまえばいい。そしてプルプル震えてるねずみをバズーカでとどめさしちまえばいいんだ。わかるな?それでもまだ不安か?そんなお前のために、この、携帯電話を渡そう。ピンチの時はこれでおれに電話してこい!だがな、絶対に電話するな!いいか、電話するんじゃないぞ!これは最後の手段だと思え。本当にピンチの時、何も打つ手がなくなったときにだけ、電話かけてこい!でもいいか、なるべくかけてくんなよ!じゃあ電話をかけるための三つの条件をお前に教えてやろう。1、やばいとき。2、しんどいとき。3、つらいとき、だ。わかったな。よし、行けッ山下〜!」
 「(直後、声色を変えて)オレの名前はねずみ一郎だチュ〜。(即座に撃ち殺される)なにっ、こんなところで死ぬことになる、とは……(すっくと立ち上がって)よくもやってくれたじゃねえか。おれの名前はねずみ三郎。ここから先へは、通せねえな。(銃を撃つが、あたっても一切きかず、弾を引っこ抜くアクションをして平然としている、山下さんを殴って気絶させる。山下さんを十字架に磔にする)チューッチュッチュッチュ、おれたちの勝ちだぜ!(と、ズボンから携帯電話が落ち、けたたましいアラーム音が鳴り響く。その音を聞きつけて川染喜弘演じる川染喜弘が登場しながら)「山下ーッ!貴様、よくも山下を……ふんふんふんふんふん!(と、激しい殴り合い、ねずみ三郎を倒す)」「よくもねずみ三郎を殺してくれたな。おれの名前はねずみ小次郎。勝負だ!ふんふんふんふん!(と、ふたたび激しい殴り合い。実力が拮抗している。が川染が勝利する)ま、負けたぜ……この鍵を持っていきな。この鍵は十字架の左手の縄を解くものだ……(絶命)」「山下、いま助けにいくぜ!(と、右手に鍵を差し込もうとしたのを見て山下さんから『右手じゃねえか』の突っ込み)すまねえ、間違えた、今、左手の鍵をあけてやるからな、ガチャン。いいか、山下よく聞け。お前はいま左手が解放されてめちゃくちゃ嬉しいだろうが、絶対に笑うな。いいか、笑ってはいけないんだ。(体を密着させながら)絶対に笑うな!なぜか、次のねずみの必殺技はカメラだ。そいつは、相手が笑顔になった瞬間を見計らってスナップを撮影し、そいつをカメラの中に閉じ込めちまうんだ。いいか、絶対に、笑うな、よ(と、なぜか川染も絶命する)(が、すぐに復活して手を胸の前でぶらんとさせて)幽霊として帰ってきたぜ。」「どうもーう、ねずみ四太夫だ。」「お前の弱点は知っている、お前のカメラは笑顔の人間にしか攻撃ができないっ!」「なにっ?!ぐはっ(と、弱点を指摘されただけで膝をつきながら)昼くったピーナッツが食道に引っかかっちまった……死ぬ前の最後の頼みだ。俺の喉に引っかかったピーナッツをそこのシャベルでかきだしてくれないか」「わかった」「ふう、助かったぜ」「よかったな」「ふふふ、ついに笑顔になりやがったな、食らえっ!(と、カメラを構えて川染喜弘を撮影するアクション)」「(とられたのは川染なのだが、なぜか山下さんがとられた設定に変わっており)山下〜ッ!(と叫びながら山下さんの体を回転させる)しまった、あの体の回転を逆回転にさせないと山下がカメラの世界に吸い込まれてしまうっ!(と、山下さんの体にしがみついて回転をさせながら、回転をとめようとして)山下〜死ぬな〜!」「なにぃ?あいつ、回転を止めようとしてやがるのか!ならばもう一回撮影するまでよ!パシャリ!」「山下〜!しかめっ面になれー!しかめっ面になって回転の速度を下げるんやー!」なんじゃかんじゃあって、回転は止まり、ねずみ四太夫を倒す。山下さんのもとに行って握手を求めようとした瞬間、川染喜弘が再び息絶える。「この電車は山下、お前が運転しろ……そして生き残ったお前だけでも渋谷まで行く、ん、だ……」
 取り残された山下さんの前に矢継ぎ早に新しい登場人物が訪れる。「電車が止まっていたから、変だと思っていたんだ。おれか?おれの名前は、ブリザードアイス。握手しよう、(と、手が触れた瞬間に手を離して)おっと冷たいだろう。おれの手は冷たいだろう。まあ、とにかく、握手しよう、おっと冷たいだろう」どういう流れでそうなったかは忘れたが、山下さんとブリザードアイスが敵対する関係であることが明るみになる。「食らえ、(と、顔の周りに大量の砲台を作るアクションをしながら)ブリザード・オメガオメガ・アルファ・ベータ・アメバアメバアメバ!MAX/MSP専用・インジケーター・アイスノン・アメーバ・ガンマ・アルファ・プロセッシング・アイスブリザード・ビーム!」しかし、ビームはきかず、ブリザードアイスは絶命する。直後、すっくと立ち上がった川染が「おれの名前はサンダー小丸。よろしく(と、ふたたび握手しかけた瞬間に手を引っ込めて)おっと、俺の手はピリッとするだろう。さあ、握手しよう!おっと、ピリっとするだろう!(額に両手をかざして)食らえサンダー小丸ビーム!(山下さんの前でビームが切れ)くそが……充電が切れちまう、とは、よ……」サンダー小丸絶命後、再び立ち上がり「おれの名前はプリズム三太夫。(山下さんの目をふさぎ)おっと、危ない危ない。お前の目が失明しちまうところだった。おれは名前の通り、まぶしい人間でね……」このあと何があったか忘れましたが、微笑み号は渋谷に向けて再び進行する。
 「山下、いいか、よく聞け、お前が渋谷に到着するまでには、さらに五人の敵が登場する。まずチェーン兄弟だ。(手を鞭のようにしならせて山下さんの肩を打ちながら)チェーンチェーン!電車が遅延!遅延!チェーン!遅延!チェーン!遅延!チェーン!」なんじゃかんじゃあって、チェーン兄弟も絶命。そこに、片言で「ヤマシタさんガンバレ!」を連呼する川染が現れる。「わたしの名前は、ロボ丸だ。」ゆっくりと渋谷に到着しつつある電車に拍手を送るように客に強制する。万雷の拍手の中、山下さん運転する微笑号が壁に到着し、ライブ終了。

10月27日 高円寺円盤
 記憶薄です。
 「今日はゆっくりいこうか」と言って水を一口飲む。「今日はね、落ち着いたライブをみなさんにお届けしたいと思ってウッ!」と突然、喉を掻き毟り、うめき声をあげて悶え苦しみはじめる。「ぐがががが」などと発話しながら床を転げまわる。客の手を握って「み、水に毒が」とかすれ声で訴えるとまだしばらく悶え苦しむ。五分ほどのた打ち回った後に「これ、先週書き下ろした曲。初演です」
 前衛オペラ『クリッ君』。「最近前衛オペラやってて、まあ好評なわけだけど、『クリック音』……これを主人公にしたオペラがかつてあっただろうか?ないよね!ないんだよ、そして今からそれをやるんだよ!」といって突然声色を変え、「どうも〜う。クリック音です。よろしく。俺はね、クリック音というもので、ドラマーの人が正確なドラミングができるように日々活躍しているんだ。そんな俺にも悩みがある。ゆみこちゃん、好きだ〜!しかし、俺はクリック音だから姿が見えないんだ、だから女にモテないんだよ!」「(声色を変えて)そんなことないわ!あなたはとても立派な人よ、クリック君!」「ゆみこちゃん……」「だから自信を出して、クリック君!」「ありがとうゆみこちゃん……付き合ってくれ!」「(豹変して)いやよ!」「なぜだ!」「絶対にいやよ!クリック君がそんなことを言うなんて、本当にがっかりしたわ!クリック君なんて大嫌いよ!」「待ってくれ、ゆみこちゃん!ゆみこちゃん!……なんでこんなことになっちまったんだ」「(さらに違う声色で)よお、クリックさんよぉ、あの女のいうことはあながち間違ってないぜ。というか、そんなだからお前はゆみこちゃんの一人も落とすことができないでいるのさ」「なんだと……?」「まあ聞けよ、クリック君。いや、クリッ君のほうがいいかな?俺の名前はドラム三太郎。ドラマーだ。クリッ君、君は自分がクリック音であることを受け入れて、俺たちドラマーたちが正確なリズムを刻めるように、自分の仕事を淡々とこなせばいいのさ。ゆみこちゃんもきっとそれを望んでいるはずさ。わかるだろう?クリッ君。おれたちドラマーは君がいないと正確なリズムを刻むこともできないのさ。君が生まれる遥か昔……そうだなあ、1960年ごろだっただろうか?あの頃はクリック音というものがなかったせいでドラマーというドラマーがシークエンスのような正確なドラミングをできずにいたのさ。その結果どうなったと思う?フリージャズが流行ったんだよ!」
 客にドラムスティックを渡して、クリック音にあわせてドラムを叩いてもらう。観客に持たせたスティックを重ねるようにして掲げさせて、「ここに集まった四人の勇者たちよ!火の勇者、サラマンダー!風の勇者、シルフィード!海の勇者、トリトン!光の戦士、ハゲ!」ドラムを演奏させるが、何度も中断しては観客に喧嘩をうる。その喧嘩の途中で、突然前衛オペラが再開されたりもした。
 床を平泳ぎで移動する。移動した先でさまざまな登場人物が登場しては死んでいく。「おれの名前は無名男爵。キャラクター付けがはっきりしていないために、男爵という肩書きで特徴を出そうと努力しているような人間だ。お前と過ごした一秒間、楽しかった、よ……(絶命)」「(すぐに起き上がって)俺の名前は次郎男爵。お前と過ごした一秒間、楽しかった、よ(絶命)」を高速で繰り返す。大量の死者が出た後、生き残ったのが「鳥男爵」
 鳥男爵は観客の声援によってのみ飛ぶことができるという設定。「鳥男爵をみんなの応援で飛ばしてやってくれ!オーオーとりだーんしゃくとりだーんしゃく!」と観客全員で鳥男爵に扮した川染に歓声を送る。途中、右の羽根がもげたりしたが、応援によってなんとか持ち直す。テーブルの上に立ち、羽ばたき続ける。「オーオー、オーオー」という応援に突如耳を傾けた川染が「鳳凰?……鳳凰だ!」と叫ぶ。「鳳凰、鳳凰、鳥男爵」という歌詞で応援しなおすように客に要求する。十分ほど応援歌を歌うと、急に崇高な態度になって「ありがとう、鳥男爵は鳳凰になり、天へと飛び去っていったのです。」
 フェードアウトラップでフェードアウトしながらライブ終了。


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