11月2日 渋谷エフェクト
 「今日は、Moqueくんの誕生日ということで、お前らラッキーじゃ!究極の芸術にたちあっとんぞ!(笛を吹く)オッケー、今日の前衛ヒップホップの後韻は《言葉の最後にこのおもちゃの笛を吹く音》だ!もう言葉だけで韻を踏んでいるだけじゃとどまらないんだよ。音で韻を踏んでいくん(笛を吹く)!オッケー、いこうぜ渋谷!」
 「よし、30歳の川染が20歳の川染に手紙を書こうじゃないか。」といって、会場内をグルグルと歩きながら言葉で巨大迷路を作り出し、それを俯瞰しながらアドバイスを繰り出す。「20代自分にとって壁だと思っていたことが30歳の自分が眺めたときに大したものではないと感じることがある。20代に行き止まりだと思っていたことも、30歳の現在地点から俯瞰すれば、その道に迷い込む必要がないということを簡単に指摘できる。(突然声を荒げて)さあ、そっちに宝箱がありますよ!そっちは壁ですよ!でも、あなたがそこでこの回り道を選んだこと、結果的には近道でしたよ!30歳になればこうして自然とマジカルソードを手に入れることができたじゃないの!大成功じゃ!ハッピーじゃ!」
 前衛オペラ。「俺の名前はクオンタイズ。俺は人間ではない存在、そう、《機能》だ。俺の人生、いや、《機能生》とでもいうべきか。おれの《機能生》はずっと乱れたビートを整理してきた。乱れたビートはすべて整理してやる。俺はクオンタイズだ。もちろん、姿は見えない。機能だからだ。そのせいで女にはモテない。」そこに、乱れたビートを打ち込む男が登場。リズムマシンを乱雑に叩きまくることで壮絶なビートを作り出す。「へへへ、整理されてたまるかよー!乱してやる乱してやる!俺はこの世の全てを乱してやる!整理だって?(鼻で笑って)整理なんてされてたまるかってんだよ!」「そのお前の乱れたビート、整えてやろうじゃないか。乱れたビートは心の乱れだ。お前の心は荒れすさんでいる。俺の能力であるところのクオンタイズでもってお前のその乱れた心ごと整えてやるよ」「ふざけるな!おれはこの乱れたビートに命をかけているんだ!整えられてたまるか……整えられてたまるかってんだよォ!」「いや、残念だが、整えさせてもらうよ」「この乱れに乱れたビートを正すだって?できるもんならやってみやがれってんだ!」「クオンタイズ!」乱雑なビートがクオンタイズによって整然としたビートに変えられてしまう。「ふざけるな!おれの乱雑なビートがこうも簡単に整理されてたまるかってんだよ!」「何度やっても無駄ですよ。私のクオンタイズ機能の前ではあらゆる乱れたものは整理される運命にあるのですから」「整えられてたまるかよ!」「何度でも整えましょう」の泥仕合がミニマルで展開される。
 その泥仕合を断ち切って、突然「ズオォォッ」と叫びながら自分の体を抱きしめ、抱きしめたものを手のひらでもてあそぶジェスチャーをしながら全ての音を止める。「このオペラはすべて、この《ビン》の中に閉じ込めてしまいました……。私の名前はビンです。この《ビン》を転がしてみましょう。(ドラムマシンの音を調節して小さい音でビートを出しながら)どうです?隙間から物語の残滓がかすかに聞こえるでしょう」「ふざけるな!どうも、私の名前はコンプレッサー機能です。全ての音にコンプをかけます。改めて、ふざけるな!俺の出番の前に話を封印しやがって!腹いせにお前の存在にコンプレッサーをかけてやろうか!」「フーム、私はなんだかあなたのこともビンに閉じ込めたくなってきましたよ」「なんだと?」再び「ズォォォォッ」といいながら自分の体を抱きしめる川染。小さなビンを机に置くジェスチャーをしながら「彼もこのビンに閉じ込めてしまいました」
 突如、ビンが自分の生い立ちを語りだす。その生い立ちがどんどん混沌としていく。28個のビンを頭にぶつけて頭から血が出る→ビンの製造会社に苦情の電話→一方的な苦情の後、全面的に自分の否を認める→相手先の担当者が、会社をクビになっている→タウンページで調べる→沖縄県の実家に帰っていた→例の苦情の件を謝罪すると「黙れ。もう電話かけてくるな」→怒り狂ったビン、沖縄のそいつの家までいってさらに苦情→訴えられる→なんで訴えられなきゃいけないんだ、とビンでそいつの頭を殴る→血が流れる→流れ出た血の痕跡が地面をキャンパスにした平面絵画作品として完成する→地面をチェーンソウで抉り取って額に入れ、ギャラリーに展示する→美術評太郎が大絶賛→ビン、雇われるが雑巾がけの才能だけで雇われる→喧嘩になる→美術評太郎の頭がビンでできていることが発覚する→政府に調査を依頼する→政府がいかついジープに乗ってやってくる→なぜかビンが美術評太郎をかくまう→しかし頭の先からビンが見えていてばれる→ジープが突撃してくる→美術評太郎轢死する→その死んだときの姿勢の足の動きをもとに彫刻を作る→それが韓国の美術展に呼ばれる→韓国の美術展では川に木を流してその流木を飛び越えるパフォーマンスをしている男がいた→そいつの足に木が刺さって血が川に流れる→その血の音を録音していたのがピコットだ→そいつは血の音を録音するためにビンの鼻にマイクロフォンをぶち込んだ!→当然喧嘩になる→その様をカメラに収めていたのがかの有名な写真家ガン一郎だ→ガン一郎はその写真をギャラリーに展示した→ビンが肖像権を訴えガン一郎と喧嘩になる→その様も写真に収められ、東京タワーのてっぺんに展示されてしまう→さらにその様をあらゆる角度から写真に収めたが、一つだけ撮影できない角度がある→その角度について政府に調査を連絡すると、政府がいかついジープに乗ってやってくる→政府も写真を取り始める→そのことを政府に連絡→ジープに乗ってやってくる→写真を撮る。最後の政府とジープのミニマルが展開されてついに収集がつかなくなると、ビンがビン自身の物語を再び《ビン》に入れてしまう。「この物語の続きは、あなたが30歳になったときにあけてください」ビンに入った物語を主催者mopueさんに投げて渡そうとすると、それを自分で邪魔する。「渡してたまるか〜!こんな物語がつまったビンなんて、海に捨ててやるぜー!」「させるかー!受け取ったぜ〜!」「なにぃ?!」「受け取れー!!!」など、紆余曲折を経て、無事《物語入りのビン》という概念芸術が誕生日プレゼントとしてmopueさんの手に渡される。
 口の動きを客に読み取ってもらい憶測でラップさせる。何を言っているのかさっぱりわからなかった。自転車を漕ぐような動きとビールを飲む、飲ませるの動きなどが何度も反復された。通訳が間違いすぎているときは「違う!」という口の動きをするのでそれだけはよくわかったのでシンクロできた。
 QY200の説明書を感情を込めて読み上げてみるコンポジション。最終的には限りなく無感情な文章にメロディーを与えて情熱的に歌い上げる始末。ライブ終了。

11月24日 円盤
 「今からちょっとライブの準備をします。でも、ただの準備とは思わないでほしい。俺の準備は《準備》というコンポジションなんだよ!究極の芸術家であるところのおれの《準備》……この完璧に構築された身体芸術性を持つ俺によって敢行される《準備》を全力で感受していけ!そして、もう準備を見ているだけで感動しすぎて涙流すくらいの感受性を見せ付けてほしい」といってライブ開始。入念に準備をする。「オッケー、準備は終わった」といってビートを流しライブをはじめようとしたところ、機材の準備を一つだけ忘れていた。「しまった!でもいいんだよ!これは《忘れていた機材の準備を改めてする》というコンポジションなんだから!」といって残りの機材も準備する。casioのキーボードからビート。
 「これで完全に準備万端よ!いや、もうバンタンよ!バンタン、東京モード学園、文化服飾学園、セツ・モードセミナーなわけよ!よっしゃいこうか!文化!バンタン!モード!セツ!文化!バンタン!モード!セツ!セツセツセツセツ!文化文化ァ!おい、ディレイかけてくれディレイ!(反響する声で)バンタン!文化!(一瞬間をおいて)セツ。イエー。宇宙いっちゃおうぜ!モード学園!文化、バンタン!おい!(激しいジェスチャーと共に)ディレイをきってくれ!いや、かけてくれ!はい、きってきって!早く早く!かけてかけて!きって!かけて!きって!違う!早くきれ!オッケー、音響の彼も相当混乱してるよね。今日はバンタンから来てくれてます!盛り上がっていけるか!声出せ声!(客の歓声を受けて)オッケー、バンタンの卒業生も盛り上がっちゃってくれてます!」
 手をかざすと音が出る風水のおもちゃを養生テープでカーテンに貼り付ける。音が出るかどうかを確認し、「今日の前衛ヒップホップの後韻はこの、(と、手をおもちゃの前にかざして音を出し)だ!もう言葉で韻を踏むだけじゃことたりないんだよ(おもちゃに手をかざす)」おもちゃがある場所に手をかざすたびに体が無理な姿勢になる。
 「いいか(突然高く飛び上がって)どっかーん!俺の頭の富士山ももう噴火しちゃってるわけよ!(おもちゃに手をかざす)それで今日の俺は実は風邪をひいてるんだね(おもちゃに手をかざす)完全にエヘン虫抱えちゃってるよね(おもちゃに手をかざす)でももうかなりラップして喉に負担を与えてる。俺の喉のエヘン虫もそろそろ超生物に進化する頃合だよ!(おもちゃに手をかざす)それに今日は唇も乾いていてだね(おもちゃに手をかざす)大きい声を出そうとして口を開くと口の端が裂けてしまうんだよ!(唇の端がパックリ裂けるというジェスチャーして)プシャー!プシャシャシャー!お前らに噴水が襲いかかる!プシャー!プシャー!(突如、客に軽く拳を押し当ててから昇龍拳の要領で飛び上がり、着地。勝利のポーズを決めて)やったぜ!(再び昇龍拳、勝利のポーズで)やったぜ!(口の端がぱっくり割れて)プシャシャシャー!」
 後韻用に貼り付けていたおもちゃが何度も落下する。「アクシデーント!」といって、黒夢の清春の形態模写をする。「薬をくれー!薬をくれー!アクシデーント!ガンガンガガガン・ガガガガンガガン!デデデレデデデレ!薬を打ってくれー!アクシデーント!おっと、黒夢の形態模写で一生が終わるところだったぜ。いま行くから待ってろ!おーっと若島津くん飛びついたー!三角飛びだ〜!」といって落下したおもちゃをダイビングキャッチする。落下するたびに駆けつけてはおもちゃを乱雑に貼り付けていくのだが、何度貼り付けても落下する。そのうち、養生テープが何重にも貼り付けられて独自のオブジェが完成してしまう。やがて諦めて、窓の前に立てかけて「発想の転換で、問題なんて何でもなんとかなるんだよ」
 「今日も新曲を書き下ろしてきてます!一万曲くらい。俺は俺の芸術がスタンダードになればいいと考えている。俺が王道になる。今日は言葉を使わないでラップします。ジェスチャーラップじゃ!」といって、ジェスチャーのみでラップする。川染喜弘の身体能力を最大限に使って全力でラップする。適当に動いているのではなく、しっかりとテキストがありそれを表現するために動いているので、体の動きと千変万化する表情にまったくブレがない。体の前で何かが膨れている動きをしたあとに、平泳ぎする動きをして《これはなんといっているでしょうかクイズ》が始まる。答えは「オレンジのダウンってあるっしょ、あれって救命胴衣に見えない?」だった。《オレンジ》という単語が動きのどこに含まれているのかまったくわからなかったのだが、ひょっとすると表情で表現していたのかもしれない。その後、手をもみしだいたり、目の前でバッテンをつくってモジモジしたり、頭を抱えたりするジェスチャーを何度も反復する。ガキデカの死刑に似た動きも繰り出されたが、これは何回目か繰り返したときになぜか「ユーガットメール」と発話した。これもクイズとして出題された。客に答えを求めたが、川染が全ての言葉を意図的に聞き間違え、答えを勝手に作っていってしまう。「さて、お前の考え抜いた答えだが(顔の前でバッテンを作って)不正解です。なぜ不正解かわかるか?お前が自分の言葉で答えず、俺の言葉に惑わされてただけだからだ。お前には自分の意思というものがないのか?じゃあ正解を言いましょう。答えは――(目の前でバッテンを作るジェスチャーをして)おしっこがもれそうだ〜、(モジモジしながら)ああ《お手洗い》はどこだろう!(ガキデカの《死刑!》に近い動きをしながら)あ、そこのあなた、《お手洗い》はここですか?(手をもみしだく動きをしながら)いかにも、ここは《お手洗い》、トイレではありません。《お手洗い》は手を洗う場所であって用を足す場所ではない!つまりお前が探しているのは《お便所》だろうが!そうだったのか、俺が探しているのは《お手洗い》ではなく《お便所》だったのか!じゃあ《お便所》はどっちですか?あっちだ!――でした〜!」
 ライブ開始時からテーブルの上に置いてあったテープレコーダーを巻き戻しながら、「これまで展開されていたライブはすべてここに録音されています。さらに、これをこの缶の中に閉じ込めてしまいましょう」と、クッキー缶にテレコを入れてしまう。「どうも、私の名前はカンカンです。彼が行ったライブ、過去の時間はすべてこの缶の中に閉じ込めてしまいました。どうです?何も聞こえなくなってしまったでしょう?(といった瞬間、先刻死刑のポーズとともに発話した《ユーガットメール》が缶の中から聞こえてくる)いや、かすかに聞こえるらしいですね。どうも、カンカンです。」テレコを入れた缶を胸に抱えて会場を徘徊しながら「カンカンです。勘違いばかりしている。癇癪もちで。観念が。感覚的に。カンチといっしょに」など、《カン》が入っている言葉をぽつりぽつり発話する。
 A4サイズのチラシを張り合わせて作った模造紙大の紙をカーテンに貼り付けて、マジックでフリーハンドの適当な巨大な円を描く。テープから宇宙を想起させる電子音を流しながら、その巨大な円にすべてが吸い込まれていく様を演じる。言葉を一切使わずに体一つで全てを展開させていく。その過程で紙に書かれた円が異常な存在感を放ち始める。机の上に置いてあった楽器などがすべてその穴に吸い込まれていく。大穴に吸い込まれそうにながらも、男はしぶとく対抗する。吸い込まれそうになった機材をすんでのところで掴み取り、吸い込まれないように抱えて走ろうとするも、手の中から機材が離れて吸い込まれていく様などが詳細に演じられる。照明を点滅させる。机の上の機材が全て吸い込まれると、ついに川染喜弘が吸い込まれそうになる。机の上に横になって、足を客に向け頭を穴に向け、穴に吸い込まれていく男を別角度から表現する。しかし、なかなか吸い込まれきらず、携帯電話で電話する余裕を発揮する。「いま穴に吸い込まれてんだけどサー、助けてよー」というようなことを言っているのだろうな、という表情をたくさん作る。すると、電話を持った男が登場。「いま助けるぞ!」とでも言っている動きをするのだが、吸い込まれる側の川染は舌を出したりウインクしたりと過剰にふざけまくる。
「この虚無の大穴に吸い込まれそうな男の運命は一体どうなってしまうのでしょうか。話の続きが気になりますか?では話しましょう。その男が助かるかどうかはこのフランジャーというエフェクターの活躍次第です!」といって、フランジャーで声にエフェクトをかけてラップし、男を救おうとする。ポケットの中から《柿の種》を出して、フランジャーの横にばら撒く。すると、フランジャーを弄っていた男が、《エフェクターのつまみ》と《お酒のつまみ》の区別がつかなくなり、柿の種の方のつまみを弄りはじめる。「おい、誰か、まわすツマミが間違っていることをフランジャーマンに指摘してやってくれ!」という川染からの指示。「間違ってるよ!」というと柿の種から手を離し、両手を口元で開いて「アラ、間違えたワ」という動きをする。「食べるほうではないツマミをまわすんだ!」というと少し迷ってから満面の笑みで柿の種を弄り始める。この指摘と間違いの連続が十分ほど反復する。
「みなさんの悲しみのすべてを、この吸収する大穴に投げ込んでしまってください!ありがとうございます!みなさんの放り込んだ悲しみはすべて吸い込まれてしまいました!ありがとうございます!みんなの悲しみをいま、ここで、すべて投げ入れてしまえ!ありがとうございました!川染喜弘でした!」ライブ終了。


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