7月4日高円寺無力無善寺
 遅刻して最初の五分見逃す。会場に到着すると、川染喜弘が「これは相当ヤバいんだよ!」と叫んでいるところだったので、恐らく前説が終わる直前だったのだろう。テープからは抜けの良い低音の四つ打ち(上モノ無し)。四つ打ちを出力するアンプの前にビニール袋を貼り付け、音で振動するビニール袋にピックアップマイクを装着し、その音を別のアンプからアンプリファイする。さらに、アンプの前にスネアドラムを共鳴して音が出るように設置し、フロアタム、シンバルなども置いていってその振動音をマイクで拾う。
「前置きが長くなったが、今日のビートはこんなもんでいいだろう。さて、これから約三十分間ほどライブをさせていただくけども、もしかしたらこのライブが一見ユーモア極まりない、稚拙極まりないものにうつるかもしれない。だが、それだけではないんだ。一見ユーモア極まりなく見えるモノの、奥の奥に潜む究極の何かを、お前達はお前達のバイブレーションで能動的に感受していってほしい。オッケー、行こう。はるか十年も昔から、そう、オレはもう十年以上に渡ってこの音楽を追求してきているんだ。追求に追求を重ねて、研ぎ澄ましに研ぎ澄まされた結果、この前衛ヒップホップの韻も、すでに言葉では踏まなくなってしまった。というわけで、(音叉を振動させてピックアップに押しつけ、サイン波を出す)今日も音で韻を踏んでいこう。十年間、そう、今年も去年に引き続き(サイン波を出す)この日本ロックフェスティバルというイベントに呼んでいただいたワケだけども(サイン波)、この7日間にわたるフェスティバルの出演者を見たら(サイン波)、みんな知ってる奴らばっかりだったのよ(サイン波)、上京して音楽を始めた当初から一緒になって演奏をしてきた連中が、十年目の今!またこうしてクロスしちゃってんのよ!(サイン波)十年間、いろんなことがあったよね。主にプライベートでは泣きーの、笑いーの、怒りーの、どちらかというと毎日泣きーの、演奏を追及しーの、働きーの、作品作りーの、揉めーの、またプライベートで泣きーの、無意識に客を傷つけーの、その傷つけてしまったということで傷つきーの、何度も諦めそうになりーの、そのたびに逆境が襲い掛かってきーの、辞めようと思いーの、そこでまた襲い掛かられーの、ふさぎこみーの、追い討ちをかけるように辛いことがありーの、それを繰り返しーので十年よ!さきほど、十年来の友人が演奏している姿を見たけど『おまえ、十年目にしてそんなところにたどり着いたのか!』という感動を味わったよ!そう、吉祥寺に昔、東風というお店があって、このフライヤーに載っている面々とはそこで出会ったんだけど、この東風という店は駅から歩いて二分くらいなのに、オレはなぜか駅から東風まで走ってたよね!みんなに会いたくて、歩いてたった二分の距離を走ってたよね!そして、十年目にしてこうしてまた交わっているんだ!日本ロックフェスティバル、ロクでもないやつらが六人集まって、イエー、日本ロックフェスティバル、ロクでもないやつらが……(沈黙して)オッケー、これがオレの提唱する全く新しい前衛ヒップホップのネクストステージ『韻を思いつかないときは黙り込む』だ!もう韻を踏む必要もないんだよ、思いつかなければ黙り込めばいい。そして、そこには現代音楽でいうところの『間』が発生しているんだ!現代音楽で、二分間の空白があったとして、それを『退屈だ』って言う奴はまったくその音楽を享受できてないよね?そういうことなんだ!全力で感受していけ!そして、このビート。もうこれを用意しちゃってるわけだから(音に合わせて腰を振り)こうなっちゃってくれちゃっても全然構わないワケよ、というか、そうなってほしいね、っていうかなるだろうし。(客に)おいオマエ!ちょっと、タバコ吸ってここでノリノリのキッズになってくれよ。タバコつけて、そう、で、踊って、で、たまに煙と光を重ねて見て、で、気分が乗ってきたらパーティーピーポーよろしく口に手をやって『アワワワワワワ!』って、そう、で手で三角作ってそれで光見て、ね。オッケー、キッズ達盛り上がってくれてると思うんだけど、こういうキッズになってくれちゃって全然いいんだから、ハッピーでいこう!ディズニーランドに行ってつまらないっていう奴はいないよね、あっちは100%のエンターテイメントを提供してくれているわけなんだから、それを楽しめないというのはお前達の想像力の欠如、お前達の感受性のミステイクなんだよ!」
 トイレから勢いよく出てきて「すっきり!」と言い放ち、それを繰り返すミニマル演奏。
 音楽通を気取るためのバンド名とその音楽性を考案する。
「皆さんもね、『好きな音楽なに?』って聞かれることがあると思うんですが、そんなときに、あんまり有名なミュージシャンの名前をあげたら舐められてしまうじゃないですか。いまからね、僕がどんどんソロユニット結成していくんで、これから好きな音楽を聞かれた時はこのバンドの名前を挙げていってください。(段ボールに次々とバンド名を書き入れながら)smash win,delay cut,sleep in,beet in,imform in point,the line,tapes signal,signal line5……(タバコを吸って踊る役割を与えられた観客に)ちょっと、『好きな音楽なんですか?』って聞いてもらってもいいかな?(客『好きな音楽なんなんですか?』)『最近?あー、ちょっと知らないかもしれないんだけど、まあ、smash winとか。知らない?そっか、じゃあdelay cut,sleep in,beet in,imform in pointあたりかな。あとはthe line,tapes signal,signal line5は良かったね』どうよ、知ってるバンド名一つもなかったでしょ。これ聞いてどう思った?(客『いや、音楽詳しいな、と思った』)そういうことなんだよ。で、このバンドは音源がないので、それも今から作っていこう。smash winは『ヤッ(という短い発声)』、これだけ。(バンド名を指差しながら、短い発声や短いヒューマンビートボックス、擬音などを出し)基本的にこれだけ。で、この短い音をマイクでサンプラーに取り込んで、それをループさせるだけの音楽だからね」
 携帯電話を使ったコンポジション。
「携帯電話の音を利用したコンポジションを作曲するたびに思うんだけど、携帯電話にラインアウトつけろや!(激昂しながら)ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!ラインアウトつけろや!携帯に内蔵された音を出力するのに不便なんじゃ!オッケー、というわけで次の作品、これもまあ相当小さい作品になると思います。そう、それこそがオレの提唱する全く新しい芸術の新概念、マイクロスコープアートだ!望遠鏡を見れば確かにそこには広大な宇宙が広がっているかもしれない、だが顕微鏡を覗いてみろ、顕微鏡の中にもまた広大な宇宙が広がっているんだ。俺の作品も顕微鏡を覗き込んだ先にある宇宙なんだ。小さすぎる宇宙は、とても切実で涙が出てくるよね。巨大な宇宙もいいけど、顕微鏡の中から覗く小さな宇宙も全力で感受していけ!オッケー、というわけで、外人が写真を撮るときのカバーやります。say、チーズ!(カメラのシャッター音(微音))say、チーズ!(カメラのシャッター音)say、チーズ!(カメラのシャッター音)say、チーズ!(カメラのシャッター音)say、チーズ!(カメラのシャッター音)say、チーズ!(カメラのシャッター音)」
客に『say、チーズ!』コールを要求する。《トイレから出てきて「すっきり!」》を組み合わせて、「すっきり、say、チーズ!」コールに変化する。
 セーターを着込んで、毛玉をガムテープで取り除いていく音をピックアップマイクで拾う。
「これはオレの代表作であると言ってもいい。というか、代表作になるだろう。そして、これはかなり小さい、泣けてくるよね!これをするためだけに、この季節セーターを引っ張り出してきているんだ!小さすぎる宇宙感じていこうぜ!」
 カセットテープのテープ部分を引っ張り出して、それを両手に持って踊りだす川染。「自作のポンポン作ってきました!」と言いながら、日本ロックコールをして自作ポンポンを持って踊り、ライブ終了。

7月8日高円寺円盤
 片手でピアノの鍵盤をたどたどしく打鍵しながら、ラップ開始。
「どうも、川、染、喜、弘だ!これから約一時間、ライブをさせていただくけども、これから展開されるオレのライブが一見稚拙極まりない、ユーモア極まりないものに、もしかしたらうつるかもしれない。だが、そのユーモアの奥の奥に潜む究極の何かを、お前達の能動的な感受性で全力で感じて帰れ!そして、オレがこのライブをしている間、常に一分一秒命がけだということを忘れないでほしい。十年かかってこの音楽性にまで到達してきている。オッケー、いこう。さて、今日はこうしてピアノを弾きながらラップさせてもらっているけども、このピアノの音が今回の前衛ヒップホップの前衛極まりないビートになります。いまはCのコードを弾いているのですが、このコードからは“ド”の低音が出ています。“ド、ミ、ソ”で構成されるのがCのコードですが、先ほどから僕が弾いていたのは、このCのコードからドを抜いた、“ミ、ソ”だけの鍵盤です。しかし、この音からも、同様に“ド”の低音が発生しています。この現象を“ミッシング・ファンダメンタル”と言いますが、そう、今回提唱するまったく新しい前衛ヒップホップのビートは、この“ミッシング・ファンダメンタル”を利用したビート、その名もミッシング・ファンダメンタル・ビートだ!」
 「これまで実に数多くのオペラ作品を演奏してきたワケだけども、今日もまた極めて前衛的なオペラを書き下ろしてきた。今回のオペラは、サウンドアートの要素を多く含んだミステリー、そう、《サウンドアート的推理オペラ》だ!まあ、推理モノなので、物語の進行上どうしても避けられない人死にが出てしまいますけども、僕は皆さんがハッピーでラッキーになれてしまうような作品をつねに提示しているので、そういった表面的な部分にとらわれずに今回の作品からもハッピーな要素を全力で感受して、そして幸せになって帰っていってほしい。そして、今回の作品は《推理》になっていて、随所に音響的なトリックが隠されているので、音楽的にストーリーを享受しながら、みなさんも能動的に、積極的に、ゴリ押しで《犯人探し》に参加してほしい!」
 「キャー!キャー!キャー!キャー!」と女の悲鳴をあげながら、会場内を往復して、ドップラー効果(近い音は高く、遠い音は低く聞こえる現象)を起こす。事件は、ドップラー効果を起こした女の悲鳴から始まる。
「『いま、女の唸るような低い悲鳴が聞こえてこなかったか?』『いや、俺が聞いた悲鳴は音が高かったぜ?』『なんだと?』『キャー!キャー!キャー!キャー!(会場内を往復)』『まただ!女の低い悲鳴が!』『甲高いキーキー声が聞こえてきた!』『一体どうなってるんだ?』『キャー!キャー!キャー!キャー!(会場内を往復)』『(新しい登場人物が登場して)待て〜い。どうも、探偵です。先ほど、私のところに女の悲鳴が聞こえてきたという連絡が入って、ここに来たわけだが……』『そうか、よろしく。オレの名前は江戸川ヨシオだ』『私?私はマダムよし子よ』『(さらに新しい登場人物が登場して)さっき高い音の女の悲鳴が!』『ほら、見ろ!音は高かったみたいじゃないか!』『でも、私が聞いた悲鳴は声が低かったのだけど……』『どうも、探偵です。あなたは?』『私はこの商店街に店を構える、商店街よし子です』『さっきからそこでピアノのCコードを弾いているのは?』『ふふふ、私はCコードよし子よ。それにしても、探偵さん、私が単にCコードを弾いているとでも思って?』『(動揺しながら)なんだって……?あ、ああっ、オマエは、Cコードを弾いているように見せかけて、実はドの鍵盤を押していないじゃないか!』『ふふふ、気付いたようね。私がドを弾かなくても、あなたたちには私の作り出した和音がCのコードに聞こえる……この現象をミッシングファンダメンタルと言うわ』『そうか』『(新たな登場人物が登場して)みなさんお集まりですな』『オマエは誰だ!』『私は、この商店街の入り口にある交番からやってまいりました、交番建て夫、警官です。先ほど商店街から連絡が入りましてね、なにやら女の低い悲鳴が聞こえてきたとのことで……』『いや、甲高かったですよ』『絶対に低かったわ!』『なんだと?』『うーん、このままでは埒があかないなあ』『キャー!キャー!キャー!キャー!(会場内を往復)』『また悲鳴ですな。声は高かったようですが……』『わたしのところでは、低く聞こえましたけど?』『うーん、わからん、一体女の悲鳴は《高かった》のか、それとも《低かった》のか……?』さてさて、皆さん気付かれたかと思いますが、ここまでの展開ではまだ死体が発見されてさえいません。極めて音響的な悲鳴がドップラー効果でもって聞こえてきただけです。では、オペラに戻ってみましょう。『(新たな登場人物が高い音のする笛を吹きながら登場)ピュルルルルル!オレの名前は、高周波出し彦だーっ!』『うーん、おまえの高周波がハウリングを起こして、頭が割れるようだわい……』『これで街の人は全員かな?』『(新たな登場人物が登場しながら)いや、まだ私が残っていますね。私の名前は楽器屋よし夫。この商店街で楽器屋を経営しているものだ』『あなたは女の悲鳴が――この際、高かったか低かったかは聞きますまい――聞こえたとき、どこで、何をしていましたか?』『ところが、私は女の悲鳴を聴いていないんですよ!』『(どよめきながら)なんだって?』『先ほど探偵さんが言われた時間帯に、私はラッパーの友人を8人集めてプライベートパーティを行っていたんです。その時の模様を録音したライブ盤がこのテープです(テープを再生する)(アンプから8トラックのラップが聴こえてくる)』」
 ちょっとしたゴタゴタ、ピックアップによる演奏、客の周りだけで悲鳴をあげる《5.1ch悲鳴》などが展開され、再び推理劇オペラに戻る。
「『では、わたしが持ってきた証拠を見ていただきましょう。私、交番建て夫が交番に待機しておりますと、私の周りに扇状に置かれてあった7台の電話が鳴り響きました。電話を7台置いていたのは(電話がくるタイミングがわからない、7つの着信音が鳴る)チャンスオペレーションを利用したサウンドインスタレーションだったのですが、そのサウンドのオブジェのうちの一つを、私は手にとりました。そして、私の耳元に飛び込んできたのは……そう、《ピッチシフター》と《ボコーダー》がかまされ、エフェクトまみれになった犯人の声でした……電話先の相手が、加工されまくった声とともに《女の悲鳴が聞こえなかったか?あれはわたしの仕業だ》といったことで、電話の主が犯人であることが判明しました。わたしは、彼が電話を切らないように、重要な手がかりを手に入れるために会話を引き伸ばそうとしました。だが、ああ、犯人は!回線が切れるか切れないかのきわどいところで、受話器をカチャカチャやる音を響かせて、回線が切れそうになる恐怖を私に与えながら、上質な《クリックノイズ》を演奏してきたのです!素人判断ですが、犯人は極めて音響的且つ知的な人間です。《おい、お前の目的はなんなんだ!そのクリックノイズを止めて、私の質問に答えろ!》私が受話器にそう怒鳴りますと、犯人が再びボコーダーがかった声で喋り始めます。《二つの丘の頂点、壊れかけのペン、商店街、ガタガタの、回答としては……》男は意味の全く繋がらない断片的な単語を、延々とポエットリーディングするように私に告げました。その時のテープがこれです』『そうか、そうかわかったぞ!この事件は、すでに《マスタリング》されている!つまりはこうだ、音響的かつ知的な犯人の残した単語……それを録音したカセットテープ……我々に与えられたこの重大なヒント!そう、犯人の発言をテープコラージュで繋ぎなおすことによって、犯人が本来伝えたかったことが判明する!ではさっそく、《コラージュ》を開始する。この事件は、すでに《マスタリング》されている!』」
 その後、テープをチマチマと切り刻みながら、それをセロテープで貼り付けていく演奏が続く。しかし、スプライサーテープではなくセロテープを使用してしまったために、コラージュしたテープがカセット内でこんがらがり、再生できなくなってしまう。
「『テープコラージュに失敗してしまった……仕方ない、お前たち商店街の住民のアリバイを検証していこう。まずは、Cコードよし子さん。あなたは悲鳴が聞こえたとき、どこで何をしていましたか?』『ふふふ、愚問ね。私はCコードよし子よ。低い女の悲鳴が聞こえたときも、こうやって、ドを抜いたCコードを打鍵していたわ』『それだ!なぜ、あなたは悲鳴が、《低い女の声》だと解ったんです?いや、あなたは知っていたはずだ。悲鳴が、女のものではなく、男であるということを!男が、ピッチシフターを使って声を女のものに近い音域に変えていたとしたら?あなたはそれを知っていたんだ!』『ガ、ガーン!何もかもお見通しなのね。そうよ、悲鳴の正体は男よ……私の負けだわ(うなだれる)』『しかし、それが判明したところで、事件は一切解決しないし、何の進展も見ないのでは?』『その通り!実は探偵っぽく振舞いたかっただけ!じゃあ、次。楽器屋よし夫さん。あなたは先ほど、悲鳴を聞かなかった/聞こえなかった、といいましたね?』『ええ』『だが、あなたは《悲鳴が聞こえていた》!違いますか?』『な、なんだって……?』『みなさんはカクテルパーティ効果をご存知だろうか?たとえばパーティ会場のように、同時にいろんな人間が喋っている騒がしい雑踏の中でも、人は個人的に興味がある声や音を自然に聞き取ってしまうことがある。あなたは8人のラッパーに囲まれていた……しかし、同時に女の悲鳴も聴いていた!そう、《カクテルパーティ効果》で!違いますか?』『……全部、バレてたのか。(観念したように両手を挙げながら)OKOK、あんたの言うとおり。俺は女の悲鳴を聴いていたよ、ラッパーの声を多重に聴きながらも、《カクテルパーティ効果》を使ってね!しかし、それが事件解決の何の助けに?』『探偵っぽく振舞いたかっただけ!だがしかし、この事件はすでに《マスタリング》されている!わたしには犯人がわかった。これから犯人を捜しに、山に登ってこようと思う。それではさらば!』」
 探偵を演じる川染喜弘がバイクにまたがる動きをしながら、エンジン音をボイスで表現する。
「バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!『全然エンジンがかからねえ!』バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!『ダメだ、このままじゃエンジン音がミニマルミュージックになっちまう!』バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!『しかし、このままエンジンがかからなければ、推理モノとしてはダメだが、ミニマルミュージックとしてはアリかも……?』バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!バルルルルルルルルル!『お前は一体何をやっているんだ』『あっ、あなたは!私に探偵業のイロハを教えてくださった師匠!』『いい加減、この一人芝居をやめないか。いいか、いまのお前は単なる筋書きのないドラマだ!』『な、なんだって?オレが、このオレが、《筋書きのないドラマ》……?』『第一、死体も発見されていないじゃないか!音響的な事件が起こるばかりで、この事件は解決するまでもなくまだ何も始まっていない!そう、音響的な実験が展開されているだけだ!』」
 文脈をぶっ飛ばしていきなりの前衛メロコア。英和辞典の英語部分をメロコアの歌唱法で歌い上げて《メロコアといえばスケボー》という流れになり、スケボー少年に扮して動きまくる川染喜弘の腹部にスケボーが突き刺さる、というラストに繋がる。《交番に音響的かつ知的電話をかけたのは、このスケボー少年だった》ということが突然明かされて、事件は何も解決しないまま、死体も何も発見されないまま、ライブ終了。

7月30日武蔵小金井アートランド
 マイクスタンドにぶら下げた風鈴をうちわで扇ぎながら、もう一方の手では携帯電話をパカパカと開閉する(開閉されるたびに、小さい電子音が鳴る)。
「川染喜弘のライブを始めさせていただきます。今日の前衛ヒップホップのビートは、この風鈴の音と携帯の音ということで、かなりアコースティックなわけだけど。さあ、今から約一時間に渡って繰り広げられるこのライブ、その奥に潜む何かを、皆さんには能動的に感受して欲しい。一見稚拙極まりない、ユーモア極まりないこのライブ、しかし、オレが常に一分一秒命がけだということを、絶対に忘れるな!(床に転がって胴体に引き寄せた手足を震わせながら)キュウキュウ。オッケー、今日の前衛ヒップホップの後韻は『ゴマアザラシの鳴き声のカバー』だ。(床に転がって)キュウキュウ。リリックとリリックの間にこのゴマアザラシのカバーを挿入することによって、すべての言葉に韻が踏めてしまうという寸法(床に転がって)キュウキュウ。オッケー、行こう!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!お前らに、キュウキュウ、オレの個人情報を授けてやろうじゃないか!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!チョコレートが好き!チョコレートが好き!甘口カレーが好き!ところで、最近、究極の、ある伝説的なRPGの最新作が発売されたっしょ!キュウキュウ、あれ、みんな娯楽で終わらせていると思うんだけど、キュウキュウ、娯楽で終わらせんなよ!キュウキュウ!いいか、見せ方を考えていけ!キュウキュウ。あの伝説のRPGの最新作が、どうしてそこんじょそこらのアートに劣っているというんだ。シナリオライターのHさんや、プログラマーの人たちが血の滲むような思いで完成させた大作RPGの最新作、アートと並べても全く遜色がないっしょ!見せ方を考えていけ、娯楽で終わらせるな、いいか、伝説的な超有名大作RPG、Dをギャラリーに展示していけ!ギャラリーに展示していこうぜ!ギャラリーに展示していこうぜ!ギャラリーに展示していこうぜ!ギャラリーに展示していこうぜ!オッケー、チョコレート、展示していこうぜ!ギャラリーに展示していこうぜ!大作RPGギャラリーに展示していこうぜ!週刊誌に載ってる漫画、ギャラリーに展示していこうぜ!チョコレート、ギャラリーに展示していこうぜ!甘口カレー、ギャラリーに展示していこうぜ!オレは、甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!甘口カレーが好き!キュウキュウ!それにしてもあっちいなーレッジーナー」
 川染喜弘の拍手が終わったら、客も拍手するように要求する。
「それでは一曲目…(拍手)ありがとうございました。(客の盛大な拍手)二曲目(三三七拍子のような独特の拍を持つ拍手)ありがとうございました。(客の盛大な拍手)(無言で一心不乱に拍手)ありがとうございました!(客の盛大な拍手)次は微音系の曲になります(ほとんど音が聴こえない拍手)ありがとうございました。(客の盛大な拍手)さて、みなさんはこの作品を“客の拍手の音をも自分のサウンドと捉えて表現する”というコンセプトを持つ作品だと思っているかもしれませんが、今回は違います。みなさんの拍手はレスポンスで、僕の拍手は作品です。それでは次は短い作品を…(一回だけ手を打ち鳴らし)ありがとうございました!(客の盛大な拍手)みなさんはさきほどの作品を、“客の拍手の音をも自分のサウンドと捉えて表現する”というコンセプトを持つ作品だと思っているかもしれませんが、今回はそうでした。(いきなり拍手、一瞬でやめて)ありがとうございました(客の盛大な拍手)」
 新聞を読み上げながら、壁に立てかけた段ボールを蹴り、風鈴と携帯のビートを鳴らす。
「これは多重録音なんですよ。『川染さんは最近、音楽作品を作ってないんじゃないか?』と聞かれることはあんまりないので、いま自分で聞きましたが、僕はこのライブこそが僕の音楽作品だと思っている。僕のライブはここのところパフォーマンス性が強い傾向にあるから誤解されやすいけども、僕がやっているのは音楽だし、これはいわば四つの音を一つの体でもって同時に出す、多重録音みたいなもんなんだよ。(段ボールを蹴りながら)ヤー!この平面に立てかけられたオブジェに(段ボールを蹴りながら)ヤーッ!この空き缶を段ボールの前に置く、これはいわばフィルタリングなんだ。段ボールを蹴る音に空き缶というフィルターを通しているわけだね(空き缶もろとも段ボールを蹴りながら)ヤーッ!このようにね、平面のオブジェの前に置かれた立体的な(空き缶もろとも段ボールを蹴りながら)やーっ!この立てかけられた平面のオブジェにゲンキックをかます際、手前に配置された空き缶のフィルタリングのサウンドが(段ボールを蹴り飛ばして)ヤーッ!(床に寝転がってゴマアザラシの模倣をしながら)キュウキュウ(右手で携帯電話、左手で風鈴を鳴らしながら新聞を読み上げて)医薬品メーカーの協和発酵キリンは、8月から順次、営業用自動車にハイブリッド車を導入すると発表した。導入規模は約1000台。営業車の約7割がハイブリッド車に置き換わる。2014年までに全国の営業拠点56か所に配備する。置き換えられると、主に排気量1500ccのガソリン車を使っている現在、と、このように(段ボールを蹴って)ヤーッ!(格闘ゲームの勝利ポーズをとって)やったぜっ!ね、このように壁に立てかけられた平面のオブジェに、足を、いや、脚、そう、キャクをかますことで(段ボールを蹴り飛ばしながら)ヤーッ!よし、これを録音して、今すぐ海外の有名なエレクトロニカのレーベルに送りつけよう。そしたら先方のほうも音を気に入って、こういってくるだろう。『ヘイ、ユアサウンドイズクール!クール!クール!サウンド!クール!』『イエス!アイアムジャパン!ジャパニスク!』『アイラブ!イエー!ラブアディクト!アディクトアディクト!ユアアディクト!マイアディクト!』『アディクトアディクト!』『クーール!』『アディクト!ラブ!ユアアディクト!』『ラブ!』『クール!』」
 録音するためのカセットを探すためにもたつく。テレコをセッティングし、先ほどと同じように、右手では携帯電話、左手では風鈴、足は段ボールを蹴り、新聞の朗読をしようとする。しかし、新聞の朗読をする前に、とつぜん前説が始まり、それが盛り上がってしまう。
「俺がなんで東京にしがみついているか解るか?ライブをしたいからだろうが!いいか、おれは田舎者なんだよ。俺が東京にいる理由なんてたった一つしかない。人前でライブがしたいからだ!宅録するだけだったら愛媛の実家に帰るわ!そんで、うどんを啜る音を録音したるわ!でもな、俺は東京にしがみついてるんだよ。ライブがしたいから!東京に残るのはとても辛いことだよ。意味解らんオールバックに頭下げて給料貰っとんのじゃ!俺は田舎者なんじゃ!ライブがなかったら東京なんかに残るか!俺が東京にしがみついてるのはライブがしたいからなんだよ!いいか、お前らを、とりあえず東京で生まれた人間だと仮定しよう。お前たちは、立派なお母さんが作ったご飯を食べてからギャラリーに行くかもしれない。でもな、俺は田舎者なんだよ!ワケわからんオールバックにしごかれて、頭さげて、それで手に入れたお金で家賃払って、それでライブせなあかんのや!東京にしがみつくの、むちゃくちゃしんどいぞ!仕事きついぞ!ギャラリー行ってる暇なんかあるか!田舎者!田舎者!いいか、いわばな、今の自分はたった一人でブラジルに渡りサッカーをプレイしている日本人なんだよ。お母さんのご飯を食べたあとにギャラリーにいけるお前らはブラジル人じゃ!いいか、ロナウジーニョと川染なんだよ!でもな、ブラジル人もがんばれ!がんばれブラジル人!がんばれ!トルシエ、いやさ、T監督っていると思うんだけど、俺はな、T監督の地に足ついた考え方が結構好きやったぞ!『今年の日本は二回戦まではいけるでしょう』普通の監督やったら根拠もなくポジティブに『決勝いけますよ!』とか言うところだが、T監督はな『二回戦』だよ!おれはな、T監督のそういうリアリティのある考え方が凄く好きだったんだ。(急に落ち着いて)おっと、リリックに夢中になってしまってついついトラック(風鈴、携帯、段ボールキック)がおろそかになってしまった」
 「最後は動物園やります」といって、客に指定された動物を川染喜弘が演じる。「コアラ」という指定に対し、デスメタルのような声を出し、ライブ終了。



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