8月12日 高円寺円盤
 テープから波の音。
「川染喜弘だ。今から約1時間、この川染喜弘がライブをさせていただくのだけども、いいか!これから展開される、約1時間のライブ!このライブが、一見、稚拙極まりない、そして、ユーモア極まりないヘンチクリンな音楽に感じられるかもしれない。だが、それで終わらせるな!その奥の奥を能動的に感じ取っていけ。いいか、俺が一分一秒、つねに命がけだということを決して忘れるな!望遠鏡からのぞく宇宙は確かに広大かもしれない、だが、顕微鏡をのぞいてみろ、顕微鏡をのぞいてみろ、顕微鏡からのぞく宇宙もまた広大だ。俺のライブはいわば、その顕微鏡からのぞく宇宙!そして、これこそが俺の提唱する芸術の全く新しい概念『マイクロスコープアート』だ!全力で感受していけ!オッケー、いこう!」
 コップに水をいれ、ストローで息を吹き込んで泡を出す。その音をピックアップで拾ってアンプリファイさせる。水をブクブクさせながらマイクパフォーマンスを並行して展開する。
「さあ、これから俺の用意してきたコンポジションで、皆さんを深海に案内していこうじゃないか。いいか、お前らの想像力次第で、この会場は深海に沈みこむ!お前たちは今から海の底まで旅をすることになるだろう……やがて到着する海底、その深海の果てにお前たちの抱えている悲しみのすべてを置いていけ!では、まずは中深層だ。ここは、わずかではあるがまだ日の光も届く……(水をブクブクさせながら)コー、ホー、コー、ホー、クラゲです、コー、ホー、コー、ホー、タコです。コー、ホー、サンマです。サンマがいます。こんなところになぜサンマが?しかし、確かにサンマです。触ってみましょう。うわー、すごく気持ちが悪い!これが魚屋の店頭で60円で売られているなんて!それにしても、本当に気持悪い肌触りです!それに、まるで背びれが尾びれみたい!」
 飛び魚の跳躍力をいかしたダイブで卵パックを押し潰す。ダイブしながら、メロコア風歌唱で熱唱する『飛び魚メロコア』。洗濯機のドラムをバチで叩いている音をビートにしたテープを流す。「ドラムといっても、これは、洗濯機のドラムなんだよ!ビートでも音で韻を踏んでしまっている。いやー、ついに、そして、また、代表作が完成してしまった!」楽器が散らばってしまってなかなか見つからない。「アレ?アレ?アレックスエンパイアアレックスコックス、アレアレア、アレ?アレ?ぺったんぴったんベラマンド、アレックスエンパイア、アレックスコックス、アレ?アレ?ピッタンぺッタン、アレ?」
 深海に突入する。照明を落として暗転。
「我々、サウンドアート電撃キラメキスキューバダイブ調査隊に、深海の強敵アンコウが襲いかかる!K-1ダイナマイト!魔裟斗vs神の子山本Kid!K-1ダイナマイト!魔娑斗vs変幻自在のトリックスター須藤元気!(ペンライトを頭の上に掲げながら)深海に突如浮かび上がる光……そう、我々サウンドアート電撃キラメキアヴァンギャルドスキューバダイブ調査隊に、深海の帝王アンコウが襲いかかる!K-1ダイナマイト!魔娑斗vs変幻自在のトリックスター須藤元気!(ペンライトを点滅させながら)日の光が届かない深海はその水温を一気に1-2℃にまで低下させる、そして我々、サウンドアート電撃キラメキチャンスオペレーションスキューバダイブ調査隊に襲いかかる恐怖の影!アンコウだ!K-1ダイナマイト!12月31日!魔娑斗vs山本Kid!(客の口の中にペンライトを向けて歯を照らしながら)C、Cの3、Cの2、C、C、Cの4!C、Cの3、Cの2、C、C、Cの1!歯科医師を装って我々サウンドアートキラメキときめき電撃インスタレーションスキューバダイブ調査隊に近づくこの怪しい深海生物、そう、アンコウだ!12月31日!K-1ダイナマイト!魔娑斗vs変幻自在のトリックスター須藤元気!ついに激突!アンコウだ!」
 超深海に突入。超深海に生息する深海生物のプロフィールをリリックに、J-POP風のメロディに乗せて歌い上げていく。「♪アシナガダラ〜背鰭は〜ほぼ連続して2つあり〜第1背鰭は丈が高く〜第2背鰭は尾鰭のすぐ近くまで達する〜Ah尾鰭は小さいが明瞭ゥ〜臀鰭は1つだがUmm...前方部分の15鰭条のみ丈が高い(フェイク)♪顎ヒゲはなく腹鰭の鰭条が〜、アー、アッアッアッ、4本ン〜長く伸びる〜体長はおよそ、ンン〜35cm〜♪」ヴィジュアル系バンド風、ポジティブソング風、フォークソング風、スカバンド風など、様々なバリエーションに展開しながら、海洋生物のプロフィールを次々と歌い上げていく。プロフィールの中に「浮き袋を使ってメスに求愛する」という一文があったのを目ざとく発見し、「お客様のなかで『浮き袋を使ってメスに求愛するコンポジション』はやらんのかい、とおっしゃられる方がおられるでしょう」といって、『浮き袋を使ってメスに求愛するコンポジション』を展開する。水を入れたビニール袋を手で揉みしだきながら、客に向かって小さな声で「好きだよ」と延々言い続ける。
「ついに超深海まで来てしまった。もう、この先には進めない。だが!今日ここに集まってくださった皆様だけに、特別に今日は存在しない層であるところの『極・深海』を見せてやろうじゃないか!(暗かった照明が明転する)極深海とは、海を突きぬけ、もはや太陽の裏側にまで到達する。暑い…暑すぎる…!そこは輝かしい光に満ちている!(機材袋の中からゲーム機のコントローラーを取り出し)お客様には、今からこの川染喜弘をコントローラーでもって操作してもらって、この極深海を楽しんでほしいと思っている。そして、悪のトリプルシャークを倒してくれ!(機材袋から一本のコーヒー缶を取り出して机に置く)なお、戦闘の際、このコーヒーのCMを放送することもどうか忘れないでほしい」
 客のコントロールする川染喜弘が、マイムで缶コーヒーのCMをしながら、三匹のサメを倒すさまが展開され、ライブ終了。



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