9月10日吉祥寺ongoing8時間ライブ
遠藤一郎氏の個展会場で久々の長時間ライブ。長時間ライブは、ライブ途中に出てきたリリックや音が何度も繰り返し登場するので、演奏した楽曲をとりあえず箇条書きで。
・前説ラップ
「今日はこの8時間ライブ、かなりのイリュージョンを巻き起こすことになるだろう。おれのライブは一見稚拙で情けないものにうつるかもしれないが、その奥の奥を感受していけ!おれがこの活動をいったい何年追及してきていると思ってる?もう10年だ!稚拙で終わらせるな、お前らの感受性を能動的にしていけ、おれがこのライブ中、つねに一分一秒命がけだということを絶対に忘れるな、そして、このライブを見たあと、みなさんにはどうかハッピーでラッキーな気分になって帰ってほしい。普段の生活で、様々な逆境が襲い掛かってくるだろう、いろんな辛いことがあるだろう、そのすべてを、このライブを見ているあいだに少しでも忘れて欲しい、そして元気になって、これからの毎日をなんとか乗り切って欲しい。顕微鏡をのぞいてみろ、顕微鏡をのぞいてみろ!天体望遠鏡からのぞく宇宙も、確かに壮大かもしれない。だが、顕微鏡の中にもまた、小さすぎるものの中にひそむ壮大な宇宙が広がっているんだ!俺の作品は、すべて小さい小さい、あまりにも小さすぎるコンセプトをもとにして作られている、そう、これこそが川染喜弘が提唱するまったく新しい芸術の新概念『マイクロスコープアート』だ!決して、壮大なアートを否定したいのではない、壮大なアートにも素晴らしいものはある、だが、小さい過ぎるものの中に潜む宇宙、つまり『マイクロスコープアート』は壮大なアートに決して劣っていない。そのアートは、一見稚拙で情けない形をとることが多い。だがしかし、それを稚拙の一言で終わらせるな!ユーモアの奥の奥に潜む究極の何かを全力で感受していけ!オッケー行こう。」
前説ラップは8時間ライブの途中に新しいお客さんが入って来るたびに、そのとき行っている演奏を中断してラップされる。そのたびに「もうさっきから何度もこの前説を聞いているお客さんもいて、そういう方々には耳にタコかもしれないが…」という断りを入れる。この「耳にタコかもしれないが…」という断りも少しずつ発展・変化してゆき《耳にタコ→耳にイカ→耳にクラゲ→耳に海洋生物大集合》とどんどん逸脱していく。八時間ライブが終了する直前くらいに、最終的に「このライブを最初から見ていただいてるお客様からしたら、さすがに聞き飽きたと、耳にポセイドンができたといわれてしまうかもしれないが…」という地点にまで到達する。外国人のお客さんが来たときには、中学英語をふんだんに使用して自分の芸術を説明する。「ジスイズノットナンセンスアート!ジスイズマイクロスコープアート!《ハハハ!ナンセンスアート!Wao!ナンセンスアート》ノー(両手でバッテンを作りながら)!ジスイズアルティメットアヴァンギャルドサウンドアート&インスタレーション&アンビエントミュージック!《ナンセンスアート!ハ、ハ、ハ!》ノー(両手でバッテンを作りながら)!!!」

・「吉田栄作の《ウォー!》を五分」という楽曲を楽譜どおりに演奏する(川染喜弘の楽譜を見てみると、本当にたった一言「吉田栄作の《ウォー!》を五分」とだけ書かれていた)。両の拳を握り締めながら大地に向かって「ウォー!」と全力で叫ぶ。何度も叫んでいるうちにだんだんと疲弊してきて、たまに壁にもたれかかる。その壁にもたれかかる時の動き、その身体も音楽。「ウォー!」と壁ぐったりの組み合わせによる五分間のミニマル演奏。

・-(ハイフン)の歌と:(コロン)の歌。段ボールに「-----------」というハイフンの連続を縦横無尽に書き付けた図形楽譜を制作し、それを楽譜どおりに歌う。「ハイフンハイフンハイフンハイフン…」とハイフンという単語を連呼したりメロディに載せたりしてハイフンという四文字で可能な歌唱を次々と展開していく。コロンの歌も同様。「コロン、コロン、コロンコロンコロン」という可愛らしいメロディの歌を客に歌わせて、それをビートにしてラップ。(コロンの歌は、8時間ライブの途中で何度も再演される)

・ギャングスタラップ風の動き&ラップ
「今日は横浜から仲間が大量にバイク乗って集まってきてる!オレの仲いい奴が持ってる奴が持ってる金だいたい悪い金!そびえたつハンドバッグ全部PRADA!横浜からバイクぶっ飛ばして渋谷!仲良さそうな奴のポッケにはだいたい悪い金!円山町に仲間集合レコード買いあさってオレの店にバイクごと入店!レコードあさって円・山・町!仲間集まってバイクでぶっ飛ばして横浜まで帰るヤバイ仲間!集まってる円山町レコード!買いあさりながらバイクに八人乗り!横浜-円山町間を何・度も往・復!イエー、今日は集まってくれちゃってる、仲間!渋谷!円山町!ポッケの中悪い金!悪い友達ポッケの中、円山町!レコード買いあさって、バイクで入・店!」この演奏は一回きり。

・大阪の女の子のタイム感覚でライブ
客の一人の横にはんなりと座り込んで「(極端に長い間)どこからきたん?(返事を聞いて)そうなんや〜、東京なんやあ、遠いなあ(極端に長い間)うち東京とかちょっと人が多くて苦手やねん、せやんなあ(極端に長い間)なにか飲み物入れようか?いらへん?(後ろを振り向いて)かなこちゃーん?この人にコーヒーいれたげてー(極端に長い間)じぶん、誰かに似てるなあ(長い間)誰かに似てるわあ(長い間)誰やろー?(長い間)(うしろを振り向いて)かなこちゃーん?この人誰かに似てへーん?(長い間)誰かに似てると思うけどなあ(極端に長い間)まあ、ええわあ、、、」この演奏は一回きり。

・ヒーローインタビュー(マラカスのつぶつぶにインタビュー)
ビートとして使っていたマラカスの中身を展開して、床に広げる。その中から一粒をフューチャーしてヒーローインタビューをする。
「今日は素晴らしい試合でした」「うるせーコノヤローバカヤロー何いってんだバカヤロー!」「今日は先発で登板して4打点、そしてノーヒットでしたけど、いかがでしたか?」「なんだコノヤロー!こっち見てんじゃねーぞバカヤローコノヤローバカヤローコノヤロー!」「いやー、今日は客席に、お母さんも来てくれてますよ?」「なんなんだオマエこのやろーバカヤローおまえなんなんだよバカヤローコノヤロー!」「ありがとうございました、続きまして、(別の粒を手にとって)今日はあまりいいところがありませんでした、こちらの選手にインタビューです」「(泣きながら)今日は、本当に素晴らしい試合ができてよかったです…」「いやー、今日はまったくダメでしたね。三ホーマー打たれてましたが」「(泣きながら)ありがとうございます、ありがとうございます」「今日は客席にお母さんも来てらっしゃいますよ?」「(涙をふきながら)母さーん、おれやったよー!」「ありがとうございました、今日はピッチャーとしては16失点、バッターとしては四打席連続フォアボールの宮本選手でした!」「(別の粒々を手にとって)続きまして監督にインタビューです」「まーね、今日は選手のコンディションもよくてですね、いい試合ができたんじゃないかとね、ハイ、思いますけどね、ハイ」「いやー、しかし見事な采配でした」「そうですね、ピッチャーもウチのチームは一人しかいませんからね、彼は辛いと思いますがね、決勝もなんとか乗り越えてほしいですね、ハイ」「次の試合はどうですか?」「彼もね、いい選手なんでね、試合はやりやすかったですよ、ハイ」「ありがとうございました」
ヒーローインタビューは何度か繰り返される。

・ポドリアムスペース
コーヒーのCMを大量制作する。「(上空に投げた回転する缶をキャッチして)コーヒーなら、ポッカ」「どんな豆を使ってるかは解らないけど、僕のお決まりはいつだってこれ、コーヒーなら、ポッカ」というような、CMらしいCMを矢継ぎ早で繰り出し続ける。そのうち、どういう流れだったのかは思い出せないが、ポケットに缶コーヒーを突っ込んだまま、うめき声をあげることしかできなくなる。そのうめくような叫び声は最初は意味のない「ウー!」とか「アー!」というものだったが、突如、その叫びの隙間に「ポドリアム」という謎の言葉が挟み込まれるようになる。「アー!うあー、アウアー!ポドリアムー!アー!ポドリアムポドリアム!ギャー!ポドリアムうわーっ!ポドリアムに飲まれていくー!」などと言いながら、どんどんトランス状態に陥っていく。そのうち、「ポドリアム!ポドリアム!」といいながら、ガムテープを床に貼り付けはじめる。そのガムテープが一つの四角形になったのを指差して「ポドリアムハウス!」といって、どんどん矩形や円形のスペースをガムテープで制作していく。ライブペイティングのようにどんどん床にガムテープが張られていき、「ポドリアムスペース!ポドリアムスペース!」と名づけていく。客の一人をガムテープにくくられた結界の中に入るように指示(ポドリアム!と叫んで命令する)し、客がその領域に身を置いた瞬間に「ポドリアムスペースー!」と叫ぶ。壮絶な勢いでガムテープでらせん状に貼り付けていき、「ポドリアム!(これ、と指差しながら)新しいト音記号!ポドリアム!」たまに正気に戻って、客に向かって話しかける→「おい、オマエちょっとこっち来いよ、恋子の毎日、ツルモク独身寮、ハゲしいな桜井くん、オマエちょっとこっち恋子の毎日ツルモク独身寮ハゲしいな桜井くん(正気を失って)ポドリアムー!ポドリアムポドリアム!ポドリアムスペース!ポドリアムスペース!」と再びトランス状態に戻る、を繰り返す。

・靴屋
「(客に靴を脱いでもらい、別の靴を履かせて)サイズどうですか?大きくないですか?夕方になると足がむくみますからね。ちょっと大きめくらいがいいと思うんですよ」ラップを中断して何度も繰り返す

・ラップ、演奏中に、くしゃくしゃにした紙を口にあてて「むっ!クロロホルム」といってその場に卒倒する。これはライブ中何度も何度も繰り返される。

・水を飲むたびに「ちょっとケージのカバーを、、、」といって喉にコンタクトマイクして水を飲む音をアンプリファイする。

・楽器店「石橋を叩いて渡る楽器」
音楽雑誌に載っているギターやベースの画像をすべて切り抜いて床に展示し、紙の楽器の楽器店を作る。

・「ヤンキーって高校時代は平気で遅刻してたくせに、社会に出た途端に遅刻をやたらと追及してきたりするけどお前が言うな!電車が止まって五分遅刻した時に、その理由を尋ねてくるけど、正直に言ってんのに『言訳すんなや』ってなんじゃそりゃ!お前らな、高校時代どんだけ無断欠席しとんのや!こちとらな、高校三年間、したくもない無遅刻無欠席達成しとんのじゃ!家から学校まで行くのに一時間以上かかるわ!友達も一人もいなかったし、学校なんて全然行きたくなかったけど、内申書がよくなって進学のとき有利って言われたけど全然役にたたんかったわ!心理学の専門学校通っとんのじゃ!死ぬほど辛い思いしていきたくない学校に三年間無遅刻無欠勤して、オレが一体なにを手に入れたと思う?記念の『万年筆』一本だけやぞ!万年筆!こんなもののためにオレは……(紙を口にあてて)むっ、クロロホルム(卒倒)」

・「↑ここまでがコーヒーのCMだったのだ、、、と解説しているこの自分もCMの一部なのだが……!そして私の体の一部はドリルになっている。私に改造手術を施してこのドリルを装着したマッドサイエンティストのプロフィールを紹介しよう。その前に、この医者を監視している男がいる。これは一体だれだ?この男もコーヒーのCMの一部なのか?その通り、ではこれを解説しているこの自分は?そして私の体の一部はドリルになっているのだが……」客の腕にドリルで穴を開けるマイムをしながら「ウィイイイイーン」という声を出す。その音が、だんだん車のエンジン音を表現する音として意味が変容し、レースゲームのサウンドになる。しかし、一面ですぐにゲームオーバーになる。「ウィイイイーン、ずがーん、タリラリラリラリラ〜♪ウィイイイーン、ずがーん、タリラリラリラリラ〜♪ウィイイイーン、ずがーん、タリラリラリラリラ〜♪ウィイイイーン、ずがーん、タリラリラリラリラ〜♪」のミニマル演奏。

・石橋を叩いて渡る楽器が完成し、紙のギターで試奏する。ペラッペラの紙ギターを手にとって、ギターソロをボイスパフォーマンスで展開。「(前傾姿勢で紙をかき鳴らしながら)ジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカ、(紙ギターのネックを上下させながら)たーりーらたーりーらたーりらたーりら、(前傾姿勢で紙をかき鳴らしながら)ジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカ、(紙ギターのネックを上下させながら)たーりーらたーりーらたーりらたーりら、(前傾姿勢で紙をかき鳴らしながら)ジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカジャッカ、(紙ギターのネックを上下させながら)たーりーらたーりーらたーりらたーりら」

・牛になり、闘牛をする。「モー」といって赤い髪に突進し、ツノに見立てた川染の二本の人差し指と紙が接触するときの微音を聴いてもらう音響作品だが、川染喜弘の速度が遅すぎて、絶対に紙に衝突しない(一生終わらない)作品になってしまう。「これ、終わらないと思ってるでしょ。でもこれが成功したらメチャクチャ感動すんぞ!(闘牛士役の客に)絶対手抜きすんなよ!(突進しながら)モ〜!(紙に避けられて)まあね、こういう作品を僕は十年以上やっているわけだけど、(紙を口元にあてがって)むっ、クロロホルム(卒倒)。(立ち上がって)まあ、つまりこれこそがマイクロスコープア(不意をついて突進しながら)モ〜!(紙に避けられて)ぜったい成功させたんぞ!そして、みなさん、これが成功した暁には、そうとうショボイ音が出るでしょう!でもその音の切実さ感受してメチャクチャ盛り上がっていこうぜ!成功したらトルシエコール頼むぜ!」

・川原で30人のヤンキーと喧嘩し、バイクを破壊され、線路を歩いて帰ろうと思ったが途中で力尽き、満身創痍でタバコを吸い続ける寡黙な革ジャン男にインタビューするコンポジション。「じゃあ、何か質問してください。オペラの登場人物に作中でインタビューできる機会なんてなかなかありませんからね!じゃあ、、、(といって横たわりタバコをふかす動きをする)」「(客が)もしもし、そこでなにしてるんですか」「(かすれ声で)(怪我してて、というマイムをしながら)おれ、いましゃべれねえんだ」しばらくタバコをふかして横たわる川染喜弘の体だけという状態になる。

・鏡の中のギターを弾いているように見えるようにギターを演奏し、イリュージョンを巻き起こそうとする演奏。客の長い!コールで打ち切られる。
耳障りがよい音だけを選んで歌詞のない歌を歌う弾き語り「ひびき」を歌い、遠藤一郎氏と二人で気合を入れたあと、イカサマで闘牛を成功させ、トルシエコールでライブ終了。

9月9日 高円寺円盤
 マラカスをビートにしてライブを開始しようとするも、マラカスの蓋が微妙に開いていたらしく、中に入っていた粒々が飛び出してきて動揺、蓋を閉めなおし、マラカスの音の出を確認し、ライブ開始。
「どうも、川染喜弘だ。かなり準備にてんぱったけども、これから約一時間ほど、ライブをさせていただこうと思っている。これから展開されるライブは、一見、稚拙極まりない、そしてユーモア極まりない表現に、もしかしたら聴こえるかもしれない。だが、ユーモアで終わらせるな、稚拙で終わらせるな、その奥の奥に内包される何かを、あなたたちのバイブレーションで感受していってほしい。俺はこの音楽をもうかれこれ十年以上追求してきている。いいか、稚拙で終わらせるな、俺が一分一秒、つねに命がけで演奏しているのだということを忘れるな(テーブルにガムテープを貼り付け、剥がす)オッケー、今日の前衛ヒップホップの後韻は、この『ガムテープを剥がす音』だ。もう言葉だけで韻を踏むんではないんだよ、音で韻を踏んでいくんだよ。そして、皆さんには、まず、この川染喜弘によって提唱された芸術の新概念、『マイクロスコープアート』について少し説明をしなければならないだろう。『マイクロスコープアート』とは何か?天体望遠鏡を覗き込むと、そこには壮大な宇宙が広がっている。だが、顕微鏡をのぞいてみろ、顕微鏡をのぞいてみろ、そこには小さすぎるものが持つ宇宙が広がっているだろう。壮大な宇宙、壮大なアートももちろん素晴らしい、素晴らしいのだが、小さすぎるものの中に内包される宇宙も、また同様に素晴らしい。そして、この川染喜弘の作品のコンセプトは、この限りなく小さい宇宙を選択している。俺が演奏する音楽は、どれもこれも小さすぎる宇宙、小さすぎるコンセプトをもっている。これが『マイクロスコープアート』の概念だ!おれが演奏する『マイクロスコープアート』の楽曲はつねに、どん底のどん底に身を置いている奴をハッピーにさせる要素が数多く内包されている。日常生活で、様々な逆境が襲い掛かってくるだろう。今から少しだけ不吉なことを言うが、明日自分の身に何が起こるかは誰にも予測できない。たとえば、このライブが終わったあと、交通事故にあう可能性だってゼロではないんだ。不吉なことを言うようだが、可能性はゼロではない!ここに奇跡的に集まったお客様たち!あなたたちは奇跡にたちあった!どうか、このライブを見たあとは、少しでもハッピーになって帰ってほしい!オッケー、行くぞ、渋谷ー!」
 音楽ツクールカナデールのシーケンサーを利用した前衛オペラ。
「前回のライブでは、探検隊が深海に探検したわけですが、今回のオペラ――もちろん、初演になりますが――も探検のコンポジションです。次なる冒険の地は一体どこだ?その目的地を、いまからシーケンサーで打ち込んでいきます。(プロジェクターの光を段ボールでさえぎりながら)うしろにモニターがありますが、それはどうか見ないでほしい。いまから、シーケンスの上にチェスを、いや、碁石を、まあ音符ですね、音符をおいていきます。そして、その置いたチェスの、いや、碁石の、というか音符ですが、その位置を僕は歌で皆さんに伝えていくので、皆さんは僕の歌を聴いて、どのような図形楽譜(目的地)が描かれているのかを想像してください。絶対にうしろのブラウン管を見ないでください!コンセプトが崩壊することになります!では、最初のチェス、いや、碁石、というか音符を……オッケー、俺の歌で、みなさんの脳内に目的地を思い描いていこうぜ〜ッ!♪一つ目の〜チェスというか碁石という名の音符はァ、楽譜の左下に位置する最も末端〜、二つ目のチェス=碁石=♪は一つ隣の一つ上〜(一つ隣の一つ上、を数回反復し)続いては、横に一つズレて配置〜(これも数回反復)さらに、一つ横、一つ下に移動〜(これも数回反復する)(→↑の反復と→の反復と→↓の反復を、もう一度繰り返し、歌うのをやめ)さあ、目的地が見えてきた!みなさん、イマジネーションかきたてられてますか!?(プロジェクターの光をふさぐ段ボールに手をかけながら)みなさんの脳内にある目的地と実際の目的地は果たして一致しているのでしょうか?我々サウンドアート探検隊が探検することになる目的地は、、、(段ボールを剥がして)これだっ!(音符でできた、二つの山)そう、今回われわれが攻略するのは、この『にっこり山』だ!その標高はエベレストよりも遥かに高い、5恒河沙メートル……(リュックサックを背負って陽気に)さあ、登ろう!そして、(ウィンクしながら親指をたてて)俺たちが探検する目的は、わかってるよナ?おれたちは山の頂上で、すべての悲しみや苦しみを解放させる『ヤッホー!』を叫ぶんだったよナ(さも了解しあっていることであるかのように、親指をたてながら)?オッケー、登ろう!にっこり山に!とはいえ、このにっこり山は、一筋縄ではいかない。我々の行く手には、恐ろしい恐ろしい敵、巨大迷宮、アマゾン民族などが次々と襲い掛かってくる、(小さな吃音を発しながら)ッ民族などの恐ろしい敵が皆さんの行く手を阻むだろう!この恐ろしい敵を倒すためにお客様たちはどうしたらいいか?方法はたった一つ、作品を『鑑賞』するだけでいいのさ!オッケー、行こう!そして、『やっほー!』と叫ぼう。それでは最初の敵です」
『にっこり山』のシーケンスがリピート再生され、オペラの舞台であると同時にビートの役割も果たす。
 山登りの途上で訪れた最初の敵(コンポジション)は、《フェイクをいれる川染喜弘》。バスケットボールを持った川染喜弘が「決める!」といってシュートを打とうとする→受聴者の一人が「させるかよ!」といって川染喜弘の前でジャンプする→シュートを中断し、ジャンプする受聴者の横を「フェイクなんだよォ!」と叫びながらドリブルで抜き去る、という演奏を、何度も繰り返し演奏するミニマルミュージック。五分ほど展開し、「最初の恐ろしい敵、《フェイク》は倒されました。そして、倒したら当然アイテムがもらえるよな?今回手に入れたアイテムは、この取っ手つきのお鍋とドラムスティックだ。(ナベを頭に装備してドラムスティックで頭を叩きながら)全然痛くない!それにこの音色!新しいアイテムを手に入れることによって我々は新しいサウンドの可能性を獲得することになるんだ!」
 段ボールに極太マッキーで『お菓子をポリポリ食べている』と書き、『ポリポリ』の部分を違う擬音にしていったら、文章の印象、文章から導き出されるイメージはどのように変わっていくか、というリリックの実験。《ポリポリ→ビリビリ→ズボズボ→ピカピカ→ビチビチ》と変化させていった。
1、ビリビリ→海苔をお菓子と考える家ではお菓子をビリビリ食べることもある。
2、ズボズボ→あまりにも勢いよくお菓子を口に突っ込むので実際にズボズボという音が聴こえてくるようだ
3、ピカピカ→お菓子のあまりのうまさに眼が飛び出るような感動を覚え、味覚の刺戟によって最終的に眼が発光する
4、ビチビチ→お菓子を何度も味わいたい一心で、汚い話になるが(『食事時にこんなこと言いたかないけど』)、口から海苔を出してビチビチにしてしまう(そして、ビチビチになった海苔を再び食す)
コンポジションはもう少し発展させられたが、時間が足りなかったので途中で終了する。が、「敵」は倒したことになるらしく、『ヘルメット』と『紐』を手に入れる。「この紐は解るか?そう、もちろん、どこからどう見ても『くさり鎌』だよな!」受聴者は、ヘルメットを装備した川染の頭部をくさり鎌こと、ビニール紐で攻撃することを要求される。紐の攻撃力が低すぎて音が微音すぎたので、特別にエキスパンダーが提供される。エキスパンダーで頭を叩くとでかい音がするが、攻撃力が高いので「怖い!こいつメチャクチャしてきよる!」と動揺する。
 手旗信号ラップ。手旗信号でリリックをラップしながら、合間合間に「Yeah!」と言ったり、コール&レスポンスを要求したりする。もちろん、レスポンスも手旗信号で行わなければならない。アルファベットを伝えることのができる『セマフォア信号』を利用した《セマフォア信号メロコア》。メロコアのコンポジションをする前にメロコアバンドのMCの完璧な模倣をする。雑誌から切り抜いたベースギターを掻き毟りながら、イントロを演奏→歌の部分からセマフォア信号でラップする。「敵」を倒して手に入れたアイテムはシンバル(盾)とボロボロのうちわ、空き缶、半壊したタンバリンなど。
 マイクにエコーをかけて、洞窟の中に突入したことを表現する。フロアタムを両手で乱打しながら、原始的な民族のようなサウンドと歌を披露するが、歌われている歌詞は「肩の力抜けって、よく言うけど/実際抜けって言われたらこうなるっしょ〜」というもので、「こうなるっしょ〜」といったあとは、全身脱力してその場で倒れこむ。
「恐ろしい恐ろしい洞くつに迷い込んでしまった!肩の力、抜けって言うけど、あれやり方わからないから、肩の力抜こうとしたら、こうなるよね!(その場で脱力して倒れこみ、微動だにしなくなる)(起き上がり、フロアタムを乱打しながら)肩の力抜け抜けって言うけれど〜、やり方がわからない〜♪ところで、この洞くつを支配するこの(ボイスパーカッション)民族は、もう何億年も昔からこの『肩の力を抜く』歌を歌い続けてきている。これはものすごく歴史の長い歌なんだね。そして、彼らは世界中でこの歌を歌ってきている。地球上のあらゆる場所にこの歌は響き渡ってきたんだ……そう、アマゾンの奥地、ピラミッドの頂上、南極などで……!彼らは民族で大移動しながら全国ツアーを展開し、この伝統的な歌が亡びないように文化を繋いできたんだ。そのツアーのファイナルに選ばれたのが、この円盤だったんだ!」『肩の力を抜く歌』を歌いながら、2番で円盤の名前を叫び、客全員が能動的に盛り上がっていくように促し、JPOPミュージシャンのツアー最終日の状態を演出する。
 時間が足りなくなってしまったので、予定していた「襲い掛かってくる敵たち」のほとんどを省略し、山の頂上にあると言われているお宝のエピソードに移行する。ふたたびプロジェクターの光を段ボールで隠し、音符の位置を歌で伝えながらシーケンサーに図形楽譜を組み立てていく。
「いろんな恐ろしい敵を倒して、俺たちはいったいどんな宝物を手に入れたのか……それは、これだ!(段ボールを取り払う)(♪の配列が『LOVE』という文字を作り出している)そして、俺たちの目的のこと、そう、(ウィンクしながら親指をたてて)もちろん忘れてないよな?この何光年もの高さを持つ『にっこり山』の頂上に、日常生活で抱えた逆境や困難、悲しみのすべておき去ってしまえ!いいか、叫ぶぞ、(エコーのかかったマイクで)ヤッホー!どうも、ありがとうございました、川染喜弘でした!」



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