10月29日武蔵小金井アートランド
 マラカスをビートにして前説ラップ(短め)。『サウンドツクールかなでーる』をシーケンサーに、四分の三拍子にして楽譜上に二つのトライアングルがあるように音符を配置し、自動再生。ライブ開始早々に革靴が脱げたのだが、靴下が左右違う色だった。
「川染喜弘だ。さっそくだが、今日の前衛ヒップホップの後韻をおまえらに提示しようと思う。今日の前衛ヒップホップの後韻は『てゆーか』だ、てゆーか、この後韻をリリックとリリックの間に挟みこむことによって、それまで展開されていたラップの文脈が暴力的に修正されてしまうという寸法よ、てゆーか、おれのやっている音楽がもしかすると少々ヘンチクリンなものに感じられるかもしれないが、おれはこの表現をもう十年以上命がけでやってきているのだということを、どうか忘れないでほしい、てゆーか、覚えてかえってほしい、オッケー、いこう!」
 段ボールに様々な曲線の名称を書き込んで行き、その名称を朗読していくコンクリートポエット作品。
「(猛然と曲線の名称を書き込んで波の形をつくりながら、エコーのかかった声で)sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!sine wave!(別の段ボールを用意して、新たな曲線の名称を猛然と書き込んでいきながら)cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!cycloid!(別の段ボールを用意して)Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!Astroid!」
 マイクのエコーがかかった状態で、アルファベットを適度な間とともに次々と発話して客を煽り、コール&レスポンスを要求する。
「Y!U!B!O!I!E!Y〜ッ!Say!K!U!T!K!(親指をたてながらウィンクして)A〜ッ!M!W!Q!P!C!S!(天を仰ぎながら)B〜ッ!オッケー、この楽曲について説明しよう。俺が放った様々なアルファベットを聴いて、皆さんの脳内では“何か意味がある言葉になってるんじゃないか?”とというイリュージョンが巻き起こっているんじゃないかと思う。だけど、このアルファベットをいくら繋げたところで意味を持つ単語にはならない……(さも約束事であるかのような笑顔とともに親指をたてながら)そうだったよな?オッケーいこうぜ!Y!U!B!O!S〜ッ!Say!B!Q!P!C!G〜ッ!イエーイ!」
 アルファベットの発話と、段ボールに曲線の名前を書き込んでいくコンポジションが合流する。エコーがかかりまくってややサイケデリックな音響になってきたので、照明をチカチカさせる。
「(テープからトライアングルウェーブの音を流し、段ボールにその曲線の名前を書き込んで三角形を作りながら)Triangle wave!Triangle wave!Triangle wave!Triangle wave!Triangle wave!C!Triangle wave!Y!Triangle wave!U!Triangle wave!コーラTriangle wave!Y!Triangle wave!コーラTriangle wave!さきほどから、単語と単語の間にコーラという単語を入れているのはサブリミナル効果だ、おれのライブを見ながら何だかコーラが飲みたくなってきた…それはサブリミナル効果だ!Triangle wave!Triangle wave!コーラ!B!Triangle wave!Q!コーラ!Triangle wave!」
他にも、sawtooth wave(のこぎり波)やsquare wave(スクエア波)などを実際にテープで流しながらどんどん段ボールに書き込んでいく。
 「ルービックキューブってあるっしょ!ルービックキューブ揃えられないっつって悩んでるキッズいると思うんだけど、そういうときはシールを剥がせ!」と主張しながら、MTRを使ったコンポジションに移行する。「いまからこいつの駆動音を録音しようと思う。このMTRのインプットにはこのコンタクトマイクがついているのだが、このマイクをこいつの体に貼り付けてしまうんだ。するとどうなる?こいつは自分自身の音を録音することになるのさ、そんなことになっているとは思わずに!これはこいつにしてみたら、かなりの屈辱だよね。様々な外部の音を録音するために生まれてきたこいつも、まさか自分が録音する時に出している音を自分に録音することになろうとは、想像もしなかっただろうぜ、オッケー、みんな、いこう!MTRに辱めを与えていこう!これなんてパラノイアよ、用語作っていこうよ、MTRの駆動音を録音すること、つまり、コングラッチュレーションテープパラノイアだ!」といって、MTRのRECボタンを押す。
 手持ち無沙汰になった川染は、ライブ冒頭に脱げてしまった革靴を履きなおし、水をつけた布でもって革靴を磨き上げる。その音をコンタクトマイクで拾いアンプリファイ(キュッキュッ、と小気味いい音が鳴る)する。後韻を「コングラッチュレーションよ(落ちていたCDを発見して盤面を見つめながら)構造色…!おまえ、こんなところで輝いていたのか!」に変更する。「ラップとラップの間に、前衛オペラのワンシーンを挟み込むという前衛ヒップホップの(CDを手に取って)構造色!オマエ、こんなところで輝いていたのか!という寸法よ、(CDを手にとって)構造色…おまえこんなところで輝いてたのか!さて、そろそろMTRに録音もされてきたでしょう。ちょっと聞いてみよう(CDを手にとって)構造色…!こんなところで輝いてたのか!(MTRのアウトプットをアンプに差し込むもたつきを展開しながら)ルービックキューブあるっしょ!あれ、揃え方がわからないと思うんだけど、そういうときはシールを剥がしてしまえばいい寸法よ!(CDを手にとって)構造色…おまえこんなところで輝いてたのかヨ?(MTRを再生するも、音が全然録音できてなかったので発狂し、絶叫する)(CDを手にとって)構造色、オマエそんなところで輝いてたのか!」かなでーるのシーケンスをラスト五分前で新しいビートにかえる。「スパイラルパラノイアよ、コングラッチュレーションよ、…構造色?!」ラップ中に喉にモチをつまらせてしまい苦しむ、というラップを展開し、苦しみにあえぎながら「おい、いんのか?ラップ中にモチを喉につまらせて苦しみまくったラッパーいんのか?新しいのか?新しいのか?」ライブ中に出てきた様々なリリックや後韻をその場でカットアップコラージュするラップを展開し、ライブ終了。

10月14日高円寺円盤
 十分遅刻して前説など見逃す。会場に到着すると、鏡にむかってターンテーブルをスクラッチしたりピアノを演奏したりしていたので、以前行った「ミラーオペラ(鏡の中で演奏しているように見えるイリュージョン)」を楽器を変えて演奏しなおしているのだろう、と判断。
 「(客に向けて腕を突き出しながら親指をたてて)元気だよね?(人差し指をたてて)元気だよね?(中指をたてて)元気だよね?(小指をたてて)元気だよね?(薬指をプルプルさせながら)コレなんなのこれ!(親指をたてて)元気だよね?(人差し指をたてて)元気だよね?(中指をたてて)元気だよね?(小指をたてて)元気だよね?(薬指をプルプルさせながら)なんなのよこれ!薬指ぜんぜん元気ないっしょっつうことと、この薬指の微妙な角度なんなのよコレ!(親指をたてて)元気!(人差し指をたてて)元気!(中指をたてて)元気!(小指をたてて)元気!(薬指をプルプルさせながら)アホかー!薬指全然元気ないやろー!」
 客にマイクを持たせて、質問をさせる。
「お名前は?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんのお仕事はなんですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんの趣味はなんですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんの好きな食べ物はなんですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙食だ」「宇宙さんは普段なにをして過ごしているんですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんは人になんと呼ばれているのですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんはどんな音楽が好きなんですか?」「(エコーのかかった声で)サイケデリックプログレだ」「宇宙さんの星座を教えてください」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんの好きなエフェクターはなんですか?」「(エコーのかかった声で)スペースエコーだ」「宇宙さんの身長を教えてください」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんの好きなものはなんですか?」「(エコーのかかった声で)天体望遠鏡と顕微鏡だ」「宇宙さんはどういった活動をされているのですか?」「(エコーのかかった声で)宇宙だ」「宇宙さんのおつとめはどちらですか?」「(エコーのかかった声で)NASAだ」
 川染と客が段ボールを装着し、電車になる。円盤の横を通る中央線の音が聴こえてくるときのみ列車が進行する。長い間をおいて、何度も「何待ちですか?」と尋ねる。紙にメモされたつながりのまったくない単語をJ-pop風に歌い上げて無理やり結合させる。(「見極めーが〜難しい湿地帯〜♪」という歌詞以外忘れてしまったが…)
 《予言》のコンポジション
「(マイクを持ったまま長考して)…20年後、カセットテープは厳しい状況に追い込まれるであろう……!(マイクを持ったまま長考して)…20年後、音楽はラップトップが主流になるであろう…!(マイクを持ったまま長考して)…20年後、テクノロジーが進化してその影響で音楽も変化するであろう……もっと先の予言が聞きたいというお客様はいらっしゃいませんか?(「100年後!」という意見をうけて長考し)…100年後、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚といった五感の差別が完全になくなるであろう……(マイクを持ったまま長考して)100年後、日本語は衰退し、世界言語は英語に統一されるであろう……つまり、我々が使っている日本語および日本語で書かれたものはすべて特殊な勉強を経てしか読むことができない古文書と化すだろう。だから、我々は今からでも、音楽を英語か、あるいはインすとぅるメンタルで演奏するのが望ましい。さすれば100年後の歴史に残ることができるであろう……」
 電車のコンポジションを再開し、その日使った楽器を両手に抱えながらコラージュした言葉をJ-POP風に歌い上げてライブ会場から退場、ライブ終了。



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