1月13日 高円寺円盤
マラカスをビートにして前説ラップ開始。
「川染喜弘だ、今日も最高のライブにしていこうと思っているのだけど、はじめましてのお客様に少々説明をしなければならない、なぜこのようにユーモア極まりない表現手段を選んでいるのか、これはもう何度も来てもらっているお客様にはずっと言い続けていることだけども、ここで今日の前衛ヒップホップの後韻は『以上を踏まえて』だ、この後韻を言葉と言葉の間に挿入することによって、リリックとリリックの意味に変化が生じるという寸法よ、以上を踏まえて、マンガ本を読みながらお菓子を、たとえば、きのこの里、いや、たけのこの里にしておこうか、マンガ本を読みながらたけのこの里食べーの、マンガ本読みーの、たけのこの里食べーの、マンガ本読みーの、たまに自分のタイミングで寝ーの、そんで起きてマンガ本読んで笑いーの、たけのこの里食べーの、そして、たまに泣きーの、で、くだらないマンガ本から何か、後の人生にまで影響を与えてくるような大切な何かをもらいーの、そんな経験が、お前たちには、ないか、おれにはある、おれのライブにユーモアの要素をいれているのはそういうスピリットだったよな、以上を踏まえた上で、それをこうして説明しているおれのスピリット、自分の表現は、単に冗談とかギャグとか洒落でやってるんじゃないんだよ、それをわかってほしい、以上を踏まえて、はじめましてのお客様には自分のやってる作品がうまく伝わらないかもしれない、こうやって前説でしつこい説明をしているのは、それをしなければ、おれの作品がナンセンスアートとして評価されてしまう可能性があるからだ、まあそれもいいのだけど、もちろんそれだけではない。たとえば、ロールプレイングゲームをやる人なんかがいると思うんだけど、そういう人たちにはこういったたとえを提示したい、このラップをしている男・川染喜弘が、陸地から遠く離れた、半径二メートルほどしかない絶海の孤島にいる老人だとしたら?そんな老人が呟いている、これはメモらないとダメだよね!、何か重要なことを言っているはずなんだ、そのへんの、町を歩いているような連中とは言っていることが違うはずだよね、オッケー、いこう、以上を踏まえて、そう、おれはこのライブ中、みなさまに自分の作品をしっかりと伝えていきたいあまり、こう、前のめり前のめりで勢いよく向かっていく場面などが多くあるかもしれない、(机を強く叩きながら客に接近して)このようなスピリットでお客様に向かっていくことも今後たくさんあるだろう、そうだな、以上を踏まえて、精魂こめてラーメンを作っている職人がいるとしよう、そのラーメン職人は最高のラーメンを作っているのだけど、出すときに、(机に勢いよく両手を叩きつけて)お待ち!とこのようにやるかもしれない、それどころか、ラーメンをそこに運ぶ過程で(器をもった両手を蛇のように動かすマイムをしてから机に叩きつけて)このようなユーモアを提示することもあるだろう、だってそんなラーメン屋の店主、面白いでしょう、面白からまた見にくるでしょう、最初は(器をもった両手を蛇のように動かすマイム)これしか見てもらえないかもしれない、(机に両手を叩きつけて)こっちにドン引きされてしまうかもしれない、でもラーメンを出したあとは(満面の笑みになって)これ、すなわち、ラブ&ピースの精神なんだよ、以上を踏まえて、(両手を蛇のように動かして)これもいいのだけど、その奥の奥にある、ラーメン屋の職人が本来もっとも伝えたい本質的な部分を感受していってほしい、以上を踏まえて、次の楽曲に移行しよう。えー、次の楽曲は(シーケンサーを操作して、変拍子のビートをアンプリファイする)『ドラムマシーンソロ』です。(ビートをバックに)以上を踏まえて、おれは常に魂を込めて全身全霊で戦っている、おれも今年で32だけども、なんとか負けずにこうして人生をインジョイしている、20代は毎日、涙涙だった、(机に突っ伏して号泣する)こんなんだった、だけど、それを乗り越えてこうやってみなさんの前に立っている、よろしく!何か人生で倒れそうなことがあったら、またこのライブを見に来て欲しい、そこで自分はいまと同じように変わらず、パフォーマンスをしているだろう、戦い続けているだろう、そして、その姿から何かを感じ取ってほしい(二つの椅子を用意してその位置を調整しながら)次の作品は、そう、角度を変えて演者を見てみよう、そういう作品になります。どういうことかといいますと、いまこうやってみなさんの前に立ってパフォーマンスをしている僕は、直立不動で仁王立ちで正面向いている姿をみなさんに見られているわけですが、こうやって(といって、一方の椅子に頭を載せ、もう一方の椅子で腰を支える、顔は天井を向いており、客は川染喜弘を上から見ているのと等しい状態になる)演者の角度を変えることによって見ているものに変化があらわれるというのを楽しんでいただく実験的な作品となっています。おい、見たことあんのか、たとえば超有名な海外のアーティストが来日して、そのライブのS席を予約したとして、そのアーティストの頭のてっぺんを正面において、上からライブ鑑賞したことあんのかよ、ないだろ?そういうことなんだよ、オッケーいこう、6月号ってあるっしょ、あれ、7月号が6月に出ることがあるけど、そう6月号と7月号、ひちがつごうと6月号における、オッケー、(辞書を乱雑にめくりながら)『Our party was defeted by our opponents in the general election.』『This was dug up.』『No Matter where you go,you'll find kind people.』ラッパーはおもむろに辞書を取り出すと、尋常ではない角度を維持したまま、辞書を利用したチャンスオペレーション的実験的カットアップコラージュ演劇のコンポジションへと移行しようとしていた。ラッパー、椅子から立ち上がると、なにやら神妙な表情になり、おもむろに椅子に足を置き、再び辞書をめくりはじめる(といいながら、自身の発話したト書きに忠実に動く)。『you can take a bus to the airport』『vacant...』『oh』『We can see everything in your room from the outside』物語めっちゃ盛り上がってんぞ!この乱雑なカットアップのなかから壮大な物語を読み取っていけ!ラッパー、機材袋からアナログシンセを取り出し、音が出る部分に口をあてながらホーミーの要領で音にフィルタリングをかけていく。ラッパー、譜面台を手にする。これね、譜面台の開け方っていつも失敗するんだけど、もうこれはちょっとしたパズルだよね!(といいながら譜面台をあけようとするもうまくいかない)ラッパー、譜面台を諦め、ふたたび角度を変えて辞書を手に取る。『The wheat field stretched as far as the eye could see.』...」
「(頭を下にして、足を斜め上にあげた状態で、辞書を片手にアナログシンセを口に押しつけ、段ボールで身を隠しながら)テクノロジーの進化にともなって音楽もどんどん進化していく。おれはハイテクノロジーな音楽にはもちろん敬意を払っているし、できれば自分だってハイテクな音楽を、新しい音楽を作りたいと考えている。でもそれをしないのはなぜか、ってそれはもう経済的理由に尽きるよね。なんといってもハイテクなことを追求して新しさを追い求めていったら金が必要になってくる。自分の表現はこの経済的な側面から逆算されてここまで行き着いているのだけど、かつてもそういったハイテクに憧れを抱きつつも地を行くことしかできない、貧困を抱えた人々はいただろう。自分はそういった貧困を抱えた人々から生まれてきた希望の星だ。もちろん『ハイテクいいな、羨ましいな』と目を輝かせながらそれを見る、『うわあ、新しいな!新しい!新しい!』だが、金がない、だから新しいことはできない。自分は別に別に新しいことをやってるとは思わない。それに新しくなくてもいい。でもな、これはどうなんだ、流石にここまでやったらかすかに“新しい”んじゃないか?こんなヤツいままでいたのかよ?いま体の角度どうなっちゃってんのよ?完全に90度いっちゃってるっしょ!」
 段ボールに謎の記号を書いたものを壁に貼りつけ、そのダンボールに向かって夢遊病のように歩いていっては壁に衝突して倒れこみ、倒れこんで股を広げた状態でしばらく静止する。その演奏を何度も繰り返し行う。「オッケー、角度を変えたのだから、次は重力を変えていこう」といって、マイクにショートディレイをかけ「わっ、わっ、わっ」と言うエコーボイスを出しながら、宇宙空間の中を漂うような動きで会場内を動き回る。「無重力も体感してもらったのだから、もう時空も超えていこうよ!」といって、客に時計を渡す。「時計の針をを操作していただければ、自分はその時間にタイムスリップして、その時間帯のライブを演奏します」という作品。7時から8時の一時間のライブだったので、はじめは7時半や7時5分などの指示を出す。しかし、ライブ中てんぱっている状態にあるので、その時間帯に自分がどのような演奏をしていたのか、正確には思い出せない。段々と英語のラップをしたり、前説をしたりと対応できるようになってくる。7時45分(実際の時間と一致)を指示すると「オッケー!今の時間に戻ってきたぜ!」と宣言する。7時55分(未来)を指示すると、55分あたりに演奏する予定だった楽曲を演奏する(陶器をこすり合わせる演奏「オッケー、残り五分、盛り上がっていこうぜ!」)。6時半くらいを指示すると、円盤の店員に「今日はよろしくお願いします」と挨拶するあたり。3時くらいを指示すると、家で機材を吟味しているプライベートの川染喜弘に。5時半を指示すると、少々戸惑いながら会場を飛び出していき、しばらくして会場に自転車とともに帰ってくる。会場内で自転車をこぐ。7時40分くらいを指示すると「このときなにしてたよ?」と聞かれる。それに答えると、「そういう聴覚だけの情報じゃ全然届かないよ、お前の魂が全然伝わってこない、おれは何してたの?お前の魂で答えろよ!聴覚だけの情報じゃぜんぜん届いてこないんだよ!」と返される。そのうちに55分になり、陶器をこすり合わせる演奏になる。さらに、角度を変える演奏も並行して行い、頭を下に全身がナナメになった状態で陶器をこすり合わせるなどしてライブ終了。



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