4/14 高円寺円盤
テープからビート
「どうも、川染喜弘だ、今日はこれから約一時間ほどライブさせていただくワケなんだけども、俺のライブが一見、ユーモア極まりないものに感じられるかもしれない。皆さんは、くだらないマンガ本からパワーをもらったことはないだろうか?お菓子食べながらマンガ読みーの、またお菓子食べーの、マンガ読みーの、そして、自分のタイミングでいったん寝ーの、またお菓子食べーの、マンガ読みーの、、そして、いつの間にか気がつくと、ポロっと涙をこぼしていたというような、人生にとって重要な何かを受け取っていたというような、そんな経験はないだろうか?俺のライブも、そういった側面がある、そして、これから繰り広げられる作品は、どれもこれもスケールが小さすぎるコンセプトの作品ばかりになるだろう、そう、これこそが、俺の提唱する芸術の新概念、マイクロスコープアートなのじゃー!そして、今回の前衛ヒップホップは(といって口を大きく開いて顎を手で押さえて)アガガガガ、アガガ、アガガガガこのように、ライブ中に顎が外れてしまうといアガガガガガ、アガガ、アガガガガガガガ、アガガ!ね、ラップの途中に顎がアガガガガ、アガガガガ、アガガ、、」
大量の指示が書き込まれた段ボールを立てかけようとしながら、
「では、次のコンポジションに、、ループ素材というのがあるのですが、ね、ループ素材、これを使えば簡単にテクノが使えてしまうという優れものなワケなんだけど、まあ、これを使って次の作品を演奏しようと思ってるんですが、あ、じゃあ、この棒をちょっと持ってもらって演奏に協力していただきたいのですが(といって、客に長い棒を手渡したまま、演奏の説明から少しずつ外れていくようなラップを続ける)こう、ハイテクノロジーに対する尊敬はあるんだけど、どうしてもお金がないと。俺は子供の頃、かつおぶしご飯ばっかり食べてたんだよね、そう、朝昼晩とカツオご飯を。しかも片親で、しかも、その母親が全く料理とか作ってくれなかったから、実質は0親だよね、いや、ゼロってことはないな、0,5親くらいだよね、で、学校から帰ってきて『母ちゃん、今日のご飯なによ』と、『今日はカツオご飯よ』と、おいおい、昨日もカツオご飯じゃったやんけ!と言うと、親と喧嘩よ、それでガラス割って、で、ガラス割っちゃったことに結構凹んじゃったりもしてるんだけど、『割ってやったぞコラー!』よ、ね、で毎日カツオご飯よ、そういう貧困が生み出したのがこの次の作品なんだけど、おれはハイテクノロジーに敬意を払っている、それは忘れないでほしい、そして、これも言っておきたいけども、中学高校と、コンビニ弁当乱れ撃ちだったんだよね、うん、そう、コンビニ弁当乱れ撃ち、カツオご飯とコンビニ弁当乱れ撃ちよ、で、このコンビニ弁当乱れ撃ちの表現が、あ、いまからアーティスト名が『コンビニ弁当乱れ撃ち』なのだけど、コンビニ弁当乱れ撃ちがね、毎日毎日かつおご飯食ってた俺がだよ、貧困の中からなんとかして生み出そうとしたのがこの、(落ちてくる段ボールを何度も直しながら)ループ素材を利用したコンポジションよ、コンビニ弁当乱れ撃ちよ!あ、それじゃあ、これに書かれている文字を、お客様に指定していただきまして、それが押されている間は自分がそのループ素材を演奏すると、そういう作品になっておりますので。失礼ですが、お名前は??オオツキさん、それじゃ、これから演奏される作品はオオツキさんの作曲・演奏による作品になりますので。そして、これは録音しよう、そして、録音したものを最後に聞こうよ!ね、(テープを用意しようとするものの、テレコがどれもこれも壊れている)で、いま、俺はかなりモタついていると思う、だが、このモタつきは完全に構築されたプロフェッショナルなモタつきなんだ、そう、これこそが俺の提唱する芸術の新概念、スローアートなのだー!あっ、じゃあお願いします、はい、棒で指し示していただいて…」
ループ素材を使った演奏は、段ボールに書かれた54個の『8beat』や『clap hands』『Rap』『Song』『SE』などの指示に従って川染喜弘が人力で反復演奏をするというもの。川染喜弘がめまぐるしい変化についていけずにモタつく時は『silence』と書かれた指示を押しっぱなしにして、この時の沈黙状態が現代音楽的な間であることを表現する。ヒューマンビートボックス、ノートを引き千切る音、水を飲む音、歯を打ち鳴らす音、タップダンスの音、手を打ち鳴らす音、歌、ラップ、タコ糸を弦楽器のように演奏する音、笑い声、ホーミーなど、様々な音をループして演奏する川染、その指示の速度についていこうとするときのモタつく不自由な身体の動きや、どんどん会場が散らかっていく様などが実に素晴らしかった。
「じゃあ、録音したのを聞いてみようか、、、これ、録れてなかったわ。。まあ、予想はしてたけどね!こういうのはもう何度も何度も経験してんのよ!そして、おれはこの録音できてなかったこの状態を『美しい』としているんだよね、たとえば、明日死ぬとしようよ、その可能性はゼロではないよね!物理学的にいってもゼロじゃないんだ!そう、明日死ぬ可能性…(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算して)ゼロじゃないよね!そう、そうなった時にだよ、これがラストライブになる可能性は(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算し)ゼロじゃないよね!そうなったら、この作品は、『川染喜弘を偲ぶ会』みたいな催しがあったときに、重要な作品として上映されるでしょう!?テロップも流れるよ、『川染喜弘…78年生まれ、香川県出身の芸術家…』、ね、で、その川染喜弘を偲ぶ会で、「このとき、作品は録音されなかった…」ってドキュメンタリー風になったら、あ、あのときの演奏は重要な意味を持ってたんだ、ってなるだろうが!いま見てる人はもしかしたら『こいつは何を言ってんだ…』と腕組かもしんない、でも、(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算したのち)明日死ぬ可能性はゼロじゃないよね!たとえば、18歳くらいで活動してる青年がいたとして、彼の表現は確かに自分から見たら未熟かもしれないよ、おれももう30歳超えてるからね、そう見えることもある、でも、彼が明日死んでしまう可能性は(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算したのち)ゼロじゃないよね、だったら、おれはそいつのメッセージに全力に真剣に向き合いたいと思うのよ。ちょっとメッセージ性強すぎて、みんなドン引きかもしんないけど、確かに言われるのよ、『よっちゃん、最近メッセージ性重いよ、前の楽しいだけのよっちゃんがよかったよ』と、言われることがあるんだけど、それだけではダメなんだよね、軽トラックにコーン!いかれて死ぬ可能性は(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算したのち)ゼロじゃないんだから!頼むよ、『川染喜弘を偲ぶ会』では、、でも、偲ぶ会になってからじゃ遅いんじゃ!いま感受しろ!明日死ぬ可能性は(卓上におかれたシーケンサーの、テンキー部分を乱打して計算したのち)ゼロじゃないんだから!」
花粉症を楽曲に取り入れたコンポジション(花粉症のためのソナタ第五番)。ティッシュで鼻をかみながら、間とコード進行を活かしたピアノ演奏を展開。 「(鼻を啜りながら元ネタのない音楽評論家のモノマネのような喋り方で)コレはデスねー、川染喜弘の傑作になりますねー、花粉症を利用したコンポジションで、鼻をすする音とコード進行の静謐なピアノ演奏が美しく絡み合う作品になっておりますねー、ハイ、実に素晴らしいです美しいです、川染喜弘は花粉症だった自分から着想を得て、楽曲の中に花粉症の要素を取り入れたんですねー、ハイ、これは花粉症のために作られた金字塔的な作品になっておりますね、では聴いていただきましょう、花粉症のためのソナタ第五番…」
『商店街の地図はまぎらわしい』ということを主張するラップをしながら、ループ素材の演奏も取り入れてパフォーマンス。「『商店街の地図、まぎらわしいぞ、オーイ!まぎらわしいぞ、オーイ!まぎわらしいぞ、オーイ!』でライブを終わらせよう!」といって、何度も何度も「世田谷で道に迷ってやっとのことで見つけた地図が商店街の地図!」というリリックを繰り返しラップする。「商店街の地図、まぎらわしいぞ、オーイ!まぎらわしいぞ、オーイ!まぎわらしいぞ、オーイ!」といってライブ終了。



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