7月3日 高円寺スタジオドム
持参してきたディレイの設定がうまくいかず、ライブ開始前からかなりもたつく川染。ライブ開始時間になっても、しばらく五分ほどディレイのフィードバックノイズを制しようとするサウンドが響く。いったん、アンプの音を落とし「さっそく、一曲目をお届けしました!」ふたたび、ディレイをいじり「二曲目『夏』を聴いていただきました!」
「じゃあ、これからライブをはじめさせていただきます」といって、スタジオを飛び出していく川染。階段の下から、なにやら叫びたてるような声。しばらく待っていると息を切らせた川染が会場に飛び込んでくる。白ヘルにサングラス、青いジャンパー、液晶の消えた腕時計というトータルコーディネートで登場。
「(腕時計と客の顔を交互に見比べながら)なあ、、いま西暦何年だ?教えてくれ、ここはいま西暦何年なんだ!?(『2010年!』という声と『2012年!』という声が飛び交うなか)2012年??おかしいな、、2010年にタイムスリップしてくるはずだったのだが、、どうやらタイムスリップに失敗してしまったようだ…(『2010年!』の声が優勢になり)そうか、よかった。俺は2080年からやってきたんだ!どうか信じてくれ、信じられないかもしれないが、(客を指差しながら)おれは70年後の君なんだ!(めちゃくちゃな方向を何度も指差しながら)君なんだ!君なんだ!君なんだ!おれは2080年からやってきた!2080年、世界がどうなっているか知りたくはないか?なんでも教えてやろう、2080年のことを何でも俺に聞いてくれ!」
エコーマイクを利用した糸電話ラップを通じて、2080年のJ-rapシーンについて語るも、聞き取ることができず。この「2080年からやってきた男・川染喜弘」のコンポジションがしばらく続くのかと思いきや、いきなり終わってしまう。
ようやくテレコからビート、前説。
「これから行われる俺のライブはかなり意味のわからないへんちくりんな音楽になるのではないかと思うけども、目が覚めたら無人島に連れ去られていたと考えてほしい。顔半分を黄色、顔半分を青色に塗って、そいで、唇を紫に染めた現地人がなにやら現地の楽器でズンドコズンドコ演奏をはじめた、と。で、その演奏がなんだかわからないけど感動したと、伝わってくるものがあったと、俺のライブもその無人島に迷い込んだ先で聞かされた現地人の演奏くらい意味わからないと思うから、そのようにして聴いていただけたらと思う。また、このようにも考えられるだろう。みなさんは、そう、島の住民なんだ、その村には人口が12人くらいしかいないんだ。その島の住民は、それぞれの役割をこなす。郵便屋は郵便を、花屋は花を、そして、音楽家は音楽を…その島にいる音楽家はたった一人だ、その音楽家は土曜日の夜にこうやってみんなを集めて演奏をする、島の人たちは島にただ一人しかいない音楽家の演奏を聞く!(客の肩をたたきながら)君は郵便屋だ!あなたは花屋で、おれは音楽家だ!キャンプファイヤーを囲んで、みんなで音楽家の音楽を聴いていると、そんなイメージで、おれの音楽を楽しんでいただけたらよいと思う。そして、おれのライブはかなり小さすぎることばかりが展開されるだろう、天体望遠鏡からのぞく宇宙はもちろん壮大だが、顕微鏡をのぞくと、そこには小さすぎるものだけが持つ宇宙が広がっている、そう、これこそが俺の提唱する芸術のまったく新しい概念、マイクロスコープアートなのだーッ!オッケー、いこう!」
「フォーチュ〜ン、フォーチュ〜ン、レトロフューチャー、フューチャー、フューチャー・オン・ザ・ビーチ、サンプリングフューチャー、メランコリックフォーチューン、マスタリングレトロフューチャ〜」というような歌詞を、即興で組み合わせてエコーマイクで歌唱する(近未来歌謡?)
テレコが半分壊れていて、川染が楽譜を見ようとしてテレコをまたぐと、音が大きくなったり止まったりする。機材がうまく動かないので、そのもたつきの間に「ちょっとMCをします」といって、MCが始まる。「今日はライブに来る前にハーブティを飲んできたんですけど、レモンを絞っていれたらなかなかおいしいコーヒーになりました。この曲は、フランスの画家アンリ・シモンさんにささげる曲です。アンリ・シモンさんに出会ったのは船の上なのですが、彼は私にハーブティをご馳走してくださいました」という話を延々とする川染。
ピアノの『フォルテッシモ』『メゾピアノ』などの音楽記号に忠実なタッチでシーケンサーをたたきながら、その音楽記号の名前を歌詞にして歌い上げるコンポジション。スタッカート、アダージョ、クレッシェンド、テヌートなど、さまざまな音楽記号がやわらかい歌声で歌われる。カセットテープから突然ノリノリの音楽が流れてくるチャンスオペレーション、「なんだこれ、記憶にないな…」といいながらも踊りだす川染。客と二人でチークダンス。テープの故障を直しているうちに、シーケンサーから音が出なくなる。何度も繰り返し鍵盤をたたき続ける川染。「このもたつき!もう13年以上こういうことを続けてんのよ、人生のすべてを音楽にささげて、なんでもライブで使おうと思って街歩いてても楽器を探してきてしまうよね!(手元に持った糸のかたまりを手に)これも今日拾ってきたのよ、楽器になるなと思って、ヘルメットもそう、もう街を歩いているときも何してるときもずっと、次のライブはどうしようかな、ってことばかり考えている。そんで気合いれてライブにのぞんで…(シーケンサーを殴打しながら)これよ、、涙ぐましいものがあるよね、ここに美しさを感じていこうぜ、、(シーケンサーの音が出るようになり)オッケー!なんとかなるじゃねえかよ、、先のことはさっぱりわからねえけどよ、なんとかなるもんだぜ、俺はいつだってこうやって生きてきた、そしてこれからも!(恍惚とした表情でシーケンサーの鍵盤を弾きながら)フォルテッシモ〜♪」
『花を植える』を演奏しようとするも、花の名前をメモした楽譜が見つからない。財布をパンパンに膨らませる楽譜が散逸し、うずたかく詰まれる楽譜。「新人類一人一人がー、そう、二人二人の新人類がー、髪の長い新人類、コーヒー飲んだら夜眠れなくなったよ〜♪」と歌いながら楽譜を探し続ける川染。結局、楽譜は見つからなかったので、急遽思い出した花の名前『ドラセナ』コールでライブを終わらせる。ドラセナの花言葉は幸福。

7月7日 高円寺スタジオドム
「うおー!今から究極の芸術が巻き起こるぞー!」と叫びながらスタジオに走りこんでくる川染、シーケンサーをたどたどしく操作しながら、夏の陽気さを表現したビート。
「オッケー!夏本番!川染喜弘です!今日は最高の芸術を巻き起こしていこうと思っているのでみんなエレクトしていっちゃおうぜー!ヒュー!この川染喜弘のライブはかなり意味のわからないものに感じられると思う!だが、こう考えていただければと思う、みなさんが朝、目を覚ましたとき、無人島に連れ去られていたとしよう、そこで顔半分を黄色、顔半分を青色、そして、唇を紫に塗りたくった原住民に三人くらいに、取り囲まれていたとしようよ!そいつらがなにやら意味わからん民族楽器でポコペンポコペン演奏を始めたと、、もう意味がわからないよね、でも、その原住民の演奏がなんか良かったと、なんか感動的だったと、、そのようなスピリッツで、おれのライブを楽しんでいただけたらと思う。それで、感動したからといって握手を求めたとしようよ、そしたら、あっちも文化が違うから、握手はこれよ(背中のうしろから手をまわして倒れこみながら)、文化が違うからね!でもそれが彼らの友好のしるしなのだから!そのようなスピリットで、僕のライブを楽しんでいただけたらと、そのように思います。(会場に外国人がいることに気づき)ソーリー!アイキャンスピークイングリッシュ、ノーボキャブラリー!えーと、インザアイランド、インザモーニング!フェイス!ハーフイエロー、ハーフブルー!ノーボキャブラリー!イングリッシュ!ノー!バット、プリーズ、ユア!スピリッツ!スピリッツ、イエー!(外人と握手しながら)スピリッツ!イエー!オッケー、スピリッツ伝わっちゃってます!オッケー、いこう!(ライブ中、この握手→スピリッツ、イエー!が何度も反復される)」
シーケンサーをピッキングして弾き語り。
電子ダーツのダンボールに書かれた英語の説明書きを、感情をたっぷり込めて歌い上げる。ブレンディボトルコーヒーのダンボール箱、野菜生活なども歌い上げる。『底辺のオブジェクト』を利用した演奏。
「今日はゲストを呼んでいます!」といって、ビデオカメラを操作する川染、だが、なかなかプロジェクターに映像が投影されない。こんがらがったコードをほぐすもたつき。「ピンをさしたよー、コンセント抜けてたよー、さしたよー」と、自分の行動の指差し確認にメロディを与えていく。相当の苦難の末に、プロジェクターに映像(画面いっぱいの顔文字)が投影される。「今日のゲストは顔文字合唱団のみなさんでーす!」といって、マイクをプロジェクターに投影された顔文字に向ける川染。マイクのコードと映像のケーブルが絡み合って、映像のケーブルが抜け、ふたたび映像が消える。指差し確認にメロディをあたえながら再び映像を投影させる。顔文字に歌わせる。かわいい顔をした顔文字を指定して歌わせてみると、顔文字のファンシーさに反して、ハードコアボイスでパフォーマンスをする。「かなりクレイジーなやつだったけど、次はだれに歌わせる??」 次の顔文字を指定すると、カラオケパブで酒と女にまつわる歌を歌うおっさんになる。
ビートがでかすぎる、と判断し、ミキサーでシーケンサーの音を操作する川染。
「(ビートの音を落として)サイレンス……!(再びビートの音をあげ、しばらく鳴らしてから音を落とし)静寂に耳を研ぎ澄ませ……!(再びビートの音をあげ、しばらく鳴らしてから音を落とし)静寂の向こうから音の嵐が聞こえてくる……!」
「タコ糸とケーブルを張り詰めた弦にしてはじく音をピックアップで拾う音、水を入れた透明の瓶を口に押し付けて揺らすときの音、ラケットの網目にピックアップを装着してスネアドラムにしたものをスティックでたたく音」などをディレイで増幅させる演奏、音と音の隙間に英単語(ラブ、シネマ、ムービー、ネイチャー、ウッド)などを挟み込むボイスパフォーマンス、シーケンサーの鍵盤の打鍵、サンプラーによる電子音即興、『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』といいながら新聞紙をちぎり捨てる演奏、心音などを組み合わせた激しい即興演奏を展開する。
観客による万雷の拍手を三回の拍手でとめるタモリの拍手を、複雑かつ不規則なリズムに組み替えて止まらないようにしてしまう「プログレタモリ」の演奏。床に横になりながら複雑な拍手をし続ける川染。
「会場に花を植える」の演奏をしようとするも、即興演奏によって荒れた会場の中から、この日も花の名前が書かれた楽譜を見つけ出すことができない。その探す作業の中で、ピックアップとそれにつながれたディレイが暴れだして会場にチャンスオペレーションでノイズが響き渡る。この日も、花の名前がドラセナしか思い出せなかったため、ドラセナを植えることに。「みなさんも、家に帰ったらドラセナの花言葉を調べてください!いくぞー!ドーラッセナッ!ドーラッセナッ!ドーラッセナッ!ドーラッセナッ!ヘーイッ!」で飛び上がり、ライブ終了。ドラセナの花言葉は幸福、幸せな恋愛など。

7月14日 高円寺円盤
シーケンサーから夏らしい陽気なビート。
「どうも、川染、喜弘、だ!今日は、これから約1時間ほど、ライブをやらせていただくワケなんだけども、イエー、この川染喜弘のライブが一見、ワケわからねーものに、感じられるかもしれない!はじめましてのお客様もいらっしゃるから、説明させていただきますが、これから巻き起こる1時間ほどのライブは、かなり意味のわからない、そして、一見、稚拙極まりないライブに感じられるかも、わからない。そう、あなたが眼を覚ましたとき、いきなり無人島に迷い込んでいたとしよう、あなたのまわりを取り囲むのは、顔半分を青色、そして半分を黄色にペンキで塗った、そして、紫色の口紅を塗った原住民!そいつらがなにやらワケのわからない楽器を演奏して、そして、あなたのまわりを取り囲んでいる!かなりワケわかんないよね!いきなり無人島に迷い込んでいるんだし!でも、ワケわかんないなりに、しばらく演奏を聴いてたら『なんか良かった…』と、そういう風にしてこの作品を感受していただければと思う、そして、俺の演奏にはそういうスピリットがこめられているのだから!この世にはいろんな価値観があります、、様々な価値観のなかに、こんな音楽やってるやつが一人くらいいてもいいだろう、そして、この価値観の違うみなさんと、僕は価値観が違うなりにわかりあって、理解しあって、ハッピーになっていけたらいいと思う!そういうスピリットも、おれの作品にはこめられているよね!オッケー、いこう!」
「ここで、人生を楽しむためのリリックを二つほど放り込もう。一つは、おれが○○ホテルで働いていたときの、、いや、名前を言う必要はなかったですね、、すいませんでした…某ホテルで働いていたときに、上司に言われたリリック。おれはホテルで配膳の仕事をしていたことがあるんだよね、うん、20歳ちょっとのころかな?それで、仕事がきついしつまらんと、それで、けっこうダラダラダラダラと仕事をしてしまってたわけね、おれだけじゃなくて、バイトの人がわりとみんなが。それで、上司がちょっと頭にきて、バイト全員呼び出して、並べて、そして、そこで上司が放ったリリック……『配膳はなァ…真剣にやったら面白いぞ!?』…これよ。これを聞いたおれはバコーン!ソウルに叩き込まれたよね、『配膳はなァ…真剣にやったら面白いぞ!?』真剣にやったら面白いぞと、そういうことを、おれは配膳から、この上司のリリックから学んだのよ、だから、おれはなんだって真剣にやるし、真剣にやってるから面白いぞ?オッケーいこう、次は、俺のおかんが昔働いていた職場の同僚のリリックだ。おかんの同僚のある人は、毎日毎日、お弁当が白米と目玉焼きだけだったらしい。一週間連続で白米と目玉焼きだったのを見て、さすがにうちのおかんも気になってしまって、とうとう『どうして目玉焼きと白米だけなんですか?目玉焼きと白米だけのお弁当を毎日食べてて飽きないんですか??』と尋ねてしまった。その返事として、おかんの同僚が放ったリリックが、これだ!『えーっ、だって、、目玉焼き…おいしいですよ!?』…これよ、このスピリットよ。白米と目玉焼きしかないという状況でいかに人生を楽しむか、そう『目玉焼き…美味しいですよ!?』この全力の楽しみ方だよね!ここに人生を楽しむヒントが隠されているんだ!かくいう俺も、おかんが料理とかまったくしない人間だったので、毎日毎日、かつおぶしご飯を食べていた!そして、今こうしてここにたっているというわけよ、オッケーいこう!!」
カシオのキーボードを操作する川染だが、なかなか目当てのデモ音源まで到達できない。しばしのもたつきの果てに、ようやく、陽気なビートが流れ出し、「いえーい!『もたつき』を現代音楽的に聴いてくれたかーい?!」といって会場から飛び出していく。やや間をおいて、サングラス&キャップをかぶった川染が会場に舞い戻ってくる。ノリノリの音楽にあわせて「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と歌う。「わかるか?『ドレミファソラシド』という歌詞でありながら、その音階は一つもあってないんだ、そういう実験的な歌謡曲を聞いてください!(メチャクチャな音階で)ドレミファソラシド〜♪」激しいパフォーマンスをしながらの歌唱に、コードなどが絡まって機材の音が止まってしまう。しばらくもたついて、再びビートが復旧し「見ろよ、なんとかなるじゃねえかよ、先のことは何一つわからねえけどさ、なんとかなっちまうもんさい、おれはいつだってこうやってきた、そしてこれからも…!(めちゃくちゃな音階で)ドレミファソラシド〜♪」
タンブラーに書かれている英文をメロコアの歌唱法で歌い上げ、そろばんでスケボーをするコンポジション。「これ、この(タンブラー)何よ、ナンだろうね、これ、ほら、あれだよ、飲み物入れるとその飲み物が腐らなくなるやつ!この、入れると飲み物が腐らなくなるやつに書かれている英語を歌っちゃってるわけよ、そういう実験音楽なのよ!そして、このそろばん!これも拾ってきた楽器なんだけど、これ、拾った瞬間に『あ、スケボーじゃん』と、そう思ったよね!だから、こうやって(メロコアっぽく歌いながらそろばんにのって)これよ、フー!初演になります」
茶色と金色の中間くらいの絶妙に汚らしい色のウィッグを装着した川染が、激しいロック音楽を流しながら、その音楽にあわせてヘッドバンキング、そして、その髪の毛がテーブルの上におかれたピックアップマイクを叩く音をアンプリファイする具体音楽。
「ずっとJ-Popを聞いてて、音楽で人に元気与えたいなと思って、ギター1本持って上京、アルタ前で弾き語りしてたらレコード会社の人がやってきて契約できる、そんな夢を抱いていたはずなのに、20歳のころ購入したサンプラーで水の音をループさせたらそれがあまりにも楽しくて衝撃的過ぎて、具体音楽にハマってしまって、そして、今は……これよー!(テーブルの上におかれたピックアップマイクにむけて激しくヘッドバンキングする。ふぁさ、ふぁさ、というようなやわらかい音)」
ブギウギ調のビートを流しながら「ブギウギブギウギ」と歌い、顔が書かれたダンボールとチークダンスを踊る。「そうだな、、遠い島から転校してきた生徒が、ものの一週間ほどの滞在で、この日転校してしまう、、そんな転校生の演奏だと思ってほしい!もうすぐお別れだぞー!ブギウギブギウギー!
「8ビートって『エイト』で英語なのに、16ビートはなんで『じゅうろく』で日本語なの?」という歌詞を何度も反復して歌おうとするが、『英語』『日本語』『エイト』『じゅうろく』が頭の中でこんがらがってなかなか正規の歌詞に到達できない反復が続く。カンフー調のデモ音源を流しながらカンフーマスターの動き&ボイスパフォーマンス。カンフーの動きで跳躍しながら、オクターブを一つ飛び越えて演奏するピアノの演奏技法『跳躍』を繰り出す。
「ライブ会場に花を植えて、その花言葉を家に帰って調べてもらうシリーズ」、今回は無事に花の名前が書かれた楽譜が見つかり、新しい花『カラジューム』を植えることに成功する。「カラジューム、オイッ!カラジューム、オイッ!カラジューム、オイッ!カラジューム!ヘイッ!」で飛び上がり、最後の「ヘイッ!」スペースエコーがかかってライブ終了。カラジュームの花言葉は「喜び、歓喜」

7月26日 高円寺円盤
『小さいちゃぶだいの上にのみ楽器を置けるというルール内でliveをする』というコンセプトのイベントに出演。20分ほどの短い演奏。ちゃぶ台をゴザがしかれたステージからおろし、台の上に、テープレコーダー二台、ビデオカメラ、シャープペンシル、携帯電話、ピックアップマイクなどを置く。ちゃぶ台を地面にこすり付ける音や、ちゃぶ台をつばで湿らせた指でキュッキュッとこする音、シャープペンシルのペン先や背中をつかってちゃぶ台をこする音、ちゃぶ台の裏面をいじる音、それらをピックアップが拾う音などをテープレコーダーに録音していく。ある程度の録音ができたら、一度テープを巻き起こし、それを再生しながら、再びちゃぶ台を演奏、その音をもう一台のテープレコーダーで録音する。そして、巻き戻し→演奏(録音)を繰り返し、リアルタイムで多重録音を展開していく。十分ほどは、このちゃぶ台演奏&多重録音が続く。完成した多重録音のテープをスクラッチしながら、音が出る部分に口をあてて人力でフランジャーをかける。ビデオカメラを操作し(ビデオカメラにピックアップを装着して、動画サーチの駆動音などを会場に響かせる)、プロジェクターに映像を投影する。「コンセプトからの逸脱」という文字がスクリーンに投影されると、ちゃぶ台の上におかれているビデオカメラの演奏によって、コンセプトから自由になった川染が、ちゃぶ台の上にあった機材から離れて会場にあるピアノを激しく演奏しはじめる。ピアノ内部にピックアップを装着するノイズ演奏と(ギターアンプを胸にかかえながらの)即興のピアノ演奏をしばらく展開したのち、カバンの中から陶器を取り出し、ちゃぶ台の上にある機材をすべてなぎ払い、ゴザがしかれたステージの上に戻しながら、陶器をテーブルの上に設置する。すばらしい声の音色と表情で「誰かがやらねばいかんでしょう」と言い、ちゃぶ台の前に着席する川染。「ちゃぶ台返しの反動を利用したコンポジション」といって、ちゃぶ台をひっくり返し、落下する陶器、後方に倒れこむ川染。「ありがとうございました、川染喜弘でした!」

7月28日武蔵小金井アートランド
テープレコーダーから水の音を流し、スクリーンに投影された「水の入ったビン」の静止画像の飲み口に腰を屈めて口をつける川染。10分間ほど、音と映像による「水」を飲む演奏が続く。
「どうも、川染喜弘だ、一曲目の演奏を、さっそく見ていただいたわけだけど、これから行われるこの川染喜弘のライブは、さっきの演奏を見てもわかるように、かなり意味のわからない演奏に感じられるかもしれない。だが、こう考えてみてほしい。朝、目がさめたら無人島に迷い込んでいた、そして、そこにいるのは、顔を半分青色、半分を黄色、そして唇をムラサキに染めている現地人!そいつらが、いきなり、なんだか意味のわからない民族楽器で音楽を演奏しはじめたとしようよ!はじめは意味わからないと思う、目が覚めていきなりつれてこられた先でそんな状況だから。。でもずっと聴いているうちに、理解できないなりに、『あれ?なんかよかったな』と、そう感じることがあるかもわからない。おれのライブも、そのようにして聴いてもらえればと思います!そして、それが自分の芸術にとって、ある一つの到達点です!この世にはいろんな人が住んでいて、多様な価値観があって、わかりあえない者同士が集っているけども、その価値観が違うもの同士、こういう音楽をやってるやつもいるんだと、そうやって少しでも歩み寄れたらと思います!そして、僕のライブには、ユーモアの要素もかなり含まれている、その過剰なユーモアに、もしかしたらみなさんは少々面食らうかもしれない。みなさんは幼少期のころに漫画本を読んだ経験はないだろうか??漫画本、気楽なもんですよね、横になりながら読みーの、笑いーの、菓子ポリポリ食べーの、たまに眠りーの、起きてまた漫画読みーの、、そしたら、なんか涙が出てきたと、くだらない漫画本を見て涙を流してしまったと、くだらない漫画本に書かれていた言葉になんか力もらって、それが人生の生きる指針になったぞと、そういう経験はないでしょうか。僕はあるんだけど、自分のライブもそのようにして聴いていただければと思う!オッケーいこう!」
 楽譜を見ながら、ゆっくりと『黄色いタンバリン、黄色い歯ブラシ、黄色い袋、赤いブツブツ、赤いスプーンの柄、ムラサキ色のゴム手袋、紺色の靴下、紺色の帽子、深緑の帽子、緑色の英和辞書』などを円形に並べていき、円形の外側のやや離れた場所に『黒い網、白いスプーン』を置く。
「絵画を描いている方ならよくご存知かと思うのですが、『色相環』というものを利用したコンポジションです。音には色というものが、『音色』というものがあるのですが、その音色というものを、視覚的にも聴いていこうと、そういった実験的な作品になっております。黄色いオブジェクトはいったいどのような音色を持っているのか、それが黄色の音色なのか、ということをこれまで何度か演奏してきているのですが、今回はそれを、色彩理論を利用して組み合わせていこうと考えています。それでは、この『色相環』にのっとって、理論的に音色を聞いていきましょう。まずはコンプリメンタリーの色相で、、」
コンプリメンタリー、トライアード、テトラードといった、色彩の組み合わせを次々と試していく川染。黄色いタンバリンとムラサキ色のゴム手袋を使った演奏がピックアップマイクによって反復されていく。三色、四色つかうときには、両手両足を使っても演奏しきれないので、黄色いタンバリンを頭にかぶるなどして演奏する。(ライブ終了まで、川染の頭には孫悟空のわっかのように頭にタンバリンが装着されたまま、少しずつずり落ちてくるのであった)
 『アップル』『バナナ』という二つの英単語をさまざまな発音と発声で歌い続けるミニマル歌唱。しょうゆのラベルを歌い上げる。海外から来た英語の迷惑メールを歌い上げる『メールアート』。くんだりラップ。井の頭線の駅名や、東横線の駅名などを延々「〜くんだり」の後韻でラップしつづける。(「下北沢くんだり高井戸くんだり、吉祥寺くんだり、明大前くんだり、桜上水くんだり、初台くんだり、、」という風に)
 キーボードからマーチの音を流し、その音にあわせて行進するコンポジション。
「お客さんにも協力していただいて作品を完成させていきたいと考えています!もしよろしかったら、参加してください!ウチもなー、ライブなんかでみんなで行進しようとか言われるやんかー、そんでなー、みんな行進したりするねんけどなー、ウチはなー、恥ずかしくてよう言われへんねん。。そんでなー、家に帰ってからシャワー浴びているときにめっちゃ後悔すんねん、、なんであのときみんなといっしょにマーチで行進しとかんかったんやろ、、ああ、なんで一緒に会場を歩かへんかったんやろって、、あの人も舞台の上で言ってはった、、明日何が起こるかなんて誰にもわからへん、、明日事故にあって死ぬ可能性もゼロではあらへんって、、だったら後悔せんとこ、あのとき一緒になって行進しとったらよかったんや、、オッケー、いこうぜ!」
観客を引き連れて、なべの蓋をシンバルにして激しく打ち鳴らしながら、客席を行進する川染。客は一人だけ行進の輪の中心に身をおいてその音を聴く(5.1chサラウンド行進のコンポジション)
さまざまな球技のボールを用意し、そのボールがバウンドするときの音色を聞き比べる。ゴルフ、サッカー、野球、卓球、テニスなどのボールをバウンドさせる具体音楽。
 会場を横断するようにして、様々な色の歯ブラシをグラデーションの配色になるようにゆっくりと並べていく。
「(並べ終わった歯ブラシの前に立ち)みなさんの発展を願いまして、、、(歯ブラシの群れを一つずつ紹介するような動きで)太陽、流れ星、流星群!…どうもありがとう川染喜弘でした!」



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