9月1日 新大久保earthdom
テーブルの前に腰掛けて、ピックアップマイクを装着したフランスパンにかじりつく川染。噛み千切る音をピックアップが増幅し、咀嚼する音をマイクが拾う。一点を見つめながら、黙々とパンを口に放り込んでいく。10分ほどパンをかじり、テープレコーダーから、日常の音を録音したようなサウンドを出す。シーケンサーからビートを流し、ラップ開始。口の中には大量のフランスパンが詰め込まれていたので、フランスパンによるフィルタリングがかかり、モゴモゴして言葉が聞き取れないラップになる。パンを口の中でかみ続けながら、激しいメッセージを主張するような動きと声を出す川染、その演奏がしばらく続き、「えー、第一部の作品を終わります。」
シーケンサーからゆるやかな、ダブ処理がされたビート。
「どうも、川染喜弘だ!いまから、かなり意味のわからない音楽をお届けすることになると思うんだけど、こう考えてみてはもらえないだろうか、あなたが、目が覚めて、無人島に迷い込んでいたとする、無人島に旅行していたとする、そしたら、そこに、顔半分を青色のペンキ、半分を赤色のペンキ、そして、唇を白く塗った原住民がいて、そいつらが何が意味のわからない演奏をいきなりしはじめたとしようよ。かなり意味がわからなくて面食らうと思うんだけど、真剣に向き合ってみたら、なんかよかったと、心に訴えかけてくるものがあったと、そういう風に感じることがあるかもしれない。そのように感じていただくことが、僕の芸術のひとつのゴールです!そして、僕のライブは、かなりユーモアの要素が盛りだくさんのライブになると思うのだけど、そこはマンガ本のスピリットで受け入れてほしい。みなさんは幼少期にくだらないマンガ本を読まなかっただろうか?くだらないマンガ本、、気楽なもんですよね。マンガ読んで笑いーの、お菓子食べーの、たまに寝ーの、そして、またマンガ読んで笑いーの、そんで、いつのまにか、そのくだらないマンガ本読んでたら、何か人生にとって大事な、生きる指針になるようなメッセージを受け取っていた、、そういう経験はないだろうか?おれはあるんだけど、俺のライブもそのようなマンガ本のスピリットで感受していただければと思う。このスタジオDOMが主催のイベントには、まったく違うジャンルの人間が集まっている、これは主催者のアニキが、ジャンルは違っていても、いい音を出すやつを貪欲に同じ場に入れていくという、そういう思惑の元、自分もそうやってこのイベントに呼ばれているのだと思うのだけど、もうこのイベントに出て5年になるけど、このイベントに出るとうれしいことがあるんだよね。パンクスが、自分とはまったく音楽性の違うパンクスが、おれのライブを見て、何か感じ取ってくれて、『川染さん、よかったっスよ、また見に行きます』と。こう言われたときの喜びはやっぱりすごいよね!これほど嬉しいことはないよね。この世にはいろんな価値観の人間がいる、そして、わかりあえないながらに、同じ場所に立ち会ってしまっている、しかし、愛を持って何かを届けることができたら、違う価値観の持ち主同士も、もしかしたら分かり合えるかもしれない!僕のライブがそのようにして伝わるといいなあ、と思って、十年以上の時間、自分はこの表現に命をかけてやってきた。意味がわからない演奏かもしれないが、十年ギターを演奏してきたお前らがギターをカッティングするときのスピリットとなんら違いがないんだ!おれは十年間もの間、自分の表現に命がけでやってきた、だから、その表現と真剣に向き合って、何か感じ取ってほしいと思うけども、もちろん、気楽に聞いてもらってもかまわないんだ。ポリンキーをポリポリ食べながら、ポッキーをポキポキ食べながら、カールを、カールを、カールを、そう、カールゴッチの声をパンニングさせながら、上下にも音を振り分けて、サウンドをサラウンドにして、宗兄弟をそれぞれ右と左に振り分けてパンニングさせて走らせながら、、そうやって聞いていただいてもかまわないんだ、オッケーいこう!」
ピックアップを装着した発泡スチロールの板を、極太マッキーで黒く塗りつぶしてく。マジックを激しくこすり付ける音や、発泡スチロールをマジックで突き破る音などが、アンプリファイされる。その演奏と平行しながら「あ、あ、あ、あ、青森!ねぶた祭り!」というリリックを反復する。
英語で数字をラップしていく。会場にある『物』を一瞬だけ演奏(手を触れる)し、「インターフェイス!」と叫ぶコンポジション。テーブルを床にすりつける、椅子をスライドさせる、空き缶を握りつぶす、自動販売機の千円挿入部分をめくる、取り出し部分に何度も手を突き入れる、ドアノブを激しく連打する、防音扉を勢いよく開閉する、割り箸をこすりつけて投げ捨てる、うちわでテーブルをたたいて投げ捨てる、など、さまざまな演奏を展開し、その直後に「インターフェイス!」と叫ぶ。『物』から『物』へと移動していく間は、オペを目前に控えた医師のような位置で両腕を固定し、両手の指先をウネウネと動かしながら会場内を悠然と歩く。
「オベーションのギターに、エモーション、モチベーション、エデュケーション!」と、ションで後韻を踏みながら延々反復していく。「『灰皿をテーブルから落としてください』というメッセージはすぐに伝わる→抽象的なリリックは伝わりにくい→だが、その抽象的な部分を強く押し出していくことでしか伝えられない領域がある」といって、再び、「モチベーション、エデュケーション、オベーションのギターが、、」や、高速ラップを展開していく。
「(4つ打ちのビートにあわせて)この日本には、先人たちが残してくれた最高のリリック、四文字熟語というのがある。かなりヤバいリリックがそろってる、基本に立ち返っていこうぜ、四字熟語をあらためてかみ締めていこう!温・故・知・新!イエー、激ヤバのリリック胸に飛び込んできちゃってると思うけど、温・故・知・新!温・故・知・新!温・故・知・新!温・故・知・新!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!四字熟語まだまだ放り込んでいくぜ!一・期・一・会!一・心・不・乱!一・期・一・会!一・心・不・乱!一・期・一・会!一・心・不・乱!一・心・不・乱!一・期・一・会!因・果・応・報!一・期・一・会!因・果・応・報!一・期・一・会!因・果・応・報!一・期・一・会!因・果・応・報!一・期・一・会!因・果・応・報!一・期・一・会!因・果・応・報!伝わってますか、先人たちの知恵、先人たちがおれたちに残してくれたリリック!一・期・一・会!因・果・応・報!(客にコール&レスポンスを要求しながら)一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!店員さん、すいません、照明のストロボ効果おねがいします!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!一・期・一・会!どうもありがとう、川染喜弘でした!」

9月5日 デザインフェスタギャラリー原宿
「(エコーのかかった小声で)どうも、川染喜弘です。今日は、近隣住民の方への配慮ということで、あまり大きな声を出せない状態でのライブとなるのですが、声の小ささに反比例するように、スピリットのほうはめっちゃ盛り上がって、燃えたぎって、今にも叫びだしそうな状態になっているので、そこんところ、どうか感じ取ってほしい、オッケー、いこう……!」
シーケンサーとサンプラーを使って、アンビエントミュージックを演奏する。少しずつテンションがあがってくると、神秘的な印象の倍音ボイスを出し、一人でトランス状態に突入していく。しばらくサンプラーの演奏とシーケンサーの演奏が続く。「一曲目を聴いていただきました。謝々、、」といって、再び、シーケンサーとサンプラーと声の演奏が始まる。
ビートをかえて前説
「俺もそろそろ人生のレッドランプが点灯しているんだ、四国から上京してきて15年、この15年、必死で東京にしがみついてガムシャラになって音楽活動をしてきたが、そろそろ限界が来ているんだ、レッドランプ、点・灯・中!たとえば、たとえばだが、もし、おかんが倒れたという連絡が入ったら、おれはいますぐにでもおかんの看病をするために四国に帰らなければならない。そこでもうゲームオーバーなんだよ!まあ、ゲームではないけども、、とにかく、俺にはもう時間がないんだ!一回一回のライブを全力で、これで最後かもしれないと思いながら演奏している。この姿から、何かを感じ取っていただけたらと思う、オッケー、いこう!」
『用途に合わせて切り貼り自由、レンジシート、とりかえ専用』という商品名が書かれた袋を見ながら、その商品名をボイスパフォーマンスでさまざまな音に表現していく。
空の容器(木工用ボンドのようなもの)からもれる空気をマイクに吹き付ける演奏、新聞紙をつなげて波打たせる演奏、英語で数字を羅列していくラップ、赤いイボイボを抱きしめる音をピックアップで拾う演奏、『シーケンサーに演奏される』演奏(ほほを膨らませてシーケンサーの鍵盤に倒れこみ、ほほを押し付け、口から漏れる音をマイクで拾う演奏)』など。ラップしながらサンプラーの音をめまぐるしくカットイン、カットアウトしていく演奏。
「最後に、このイベントにやばいリリックをたたきつけてやろう。そう、おれたちはすごいリリックを受け継いでいる、先人たちの知恵、四文字熟語!」といって、四文字熟語ラップ、今回の四字熟語は『切磋琢磨』『一期一会』 コール&レスポンスを要求して、「私もな、めっちゃわかんねん、、ライブとか言ってな、、コール&レスポンスとかやるやんかあ、あれ、うち、めっちゃ恥ずかしくてやられへんねん、、でもな、家に帰ってシャワー浴びてるときにむっちゃ後悔すんねん。。ああ、なんであのとき四字熟語一緒にやらへんかってんやろって、むっちゃ後悔すんねん、、あの人も言っとった、、明日死ぬ可能性もゼロやない、全力で楽しんでいこうって、、そうや、うちもみんなと一緒に全力で人生を楽しまんと!」といって客をあおる。一期一会コールでライブ終了。

9月8日 高円寺円盤
「どうも、川染喜弘だ。今日はこれから1時間ほどライブさせていただくワケなんだけども、これから巻き起こるこの川染喜弘のライブが、一見、意味のわからない音楽に感じられるかもわからない。こう考えてほしい。朝、あなたは目が覚めたら、どこか場所のわからない無人島に迷い込んでいて、まわりを、顔半分を青色、顔半分を赤色、そして、唇を白く塗った原住民に囲まれている、そして、彼らはなにやら得体の知れない民族楽器を持ち出してきて、意味のわからない演奏を始める。最初は意味がわからないよね、でも、だんだん聞いているうちに、わけがわからないなりに、なんだか感じるものがあったと、感動して涙が出てきたと、、そんな風にしてこのライブを、享受していただければと思う。そして、そういう風に聞いてもらうことが、自分の芸術のひとつのゴールです!また、僕のライブは、かなりユーモア極まりないものになると思うのだけど、みなさんは幼少のころ漫画本を読まなかっただろうか?くだらない漫画本を、読まなかっただろうか?漫画本、気楽なもんですよね、漫画読みーの、読みながら菓子ぽりぽり食いーの、漫画読みーの、菓子食いーの、自分のタイミングで寝ーの、漫画読みーの、で、たまに心を打たれて泣きーの、、そういう経験はみなさんにはないだろうか?おれはあるんだけど、そういった漫画本のスピリットでライブを楽しんでいただけたらと思う、オッケー、いこう!それでは二曲目は、ハッピーでラッキーになれちゃうダンストラックを……」
といって、テープレコーダーを再生し、その音をマイクで拾う。早めの四つ打ちのトラックがテレコの音色で流れる。ビデオカメラを起動し、カメラの前で手をゆっくりと動かす。その手の動きがスクリーンに投影される。少しずつ音が大きくなっていく。手は左右対称に組み合わさったり離れたりして動く。その演奏がしばらく続く。
「イエー!お届けしたわけだけど、今日の演奏は、かなり『無人島』感が強いと思う!しかし、自分は、メッセージ性を重要視しているけれども、それと同じくらい、抽象表現を大切にしている、具体的な言葉では伝えられないことを、おれは抽象的な演奏を通じて伝えられればと思っている。たとえば、(高速ラップの姿勢になり)ジャンポールゴルチエと綾戸智絵を知恵の輪で遊びながら同時に頭の中でパンニングさせて、バスキアとキアヌリーブス、レイチャールズとチャーと加藤茶の三人の演奏を多重録音で生み出しながら、スクリーミングキスハー!キスハー!キスハー!キスハー!がマイブラッディバレンタインのラブレスで、右脳と左脳をミキシングしてパンニングさせながら綾戸智絵とジャンポールゴルチエとキアヌリーブスとバスキアに、、、とこのように、何言ってるかわからないコラージュラップを通じて、具体的なメッセージ性では伝えられないメッセージを伝えようとしているんだ、オッケーいこう!」
サンプラーから音を出し、アンプのスピーカー部分にコップに入った水を置き、音を利用して水を振動させる。その水の波紋の動きを撮影し、スクリーンに投影する。サンプラーから出る音をより低い音にし、アンプの音量を巨大にしていく。撮影中、カメラが何度もコップに触れるため、音で揺れているのか、触れたせいでゆれてしまったのかわからない状態になる。この演奏がしばらく続く。
再び、コラージュラップを繰り出しながら、演奏時間が迫っていたので、速めのビートにあわせて四文字熟語を反復する演奏へ移行する。『一日一生』『七転八起』といった四字熟語を連呼し、ライブに参加できない大阪女のコンポジションも繰り出し、最後は『一期一会』コールでライブ終了。

9月29日 武蔵小金井アートランド
10分ほどの短いパフォーマンス。武蔵小金井アートランドの10周年を祝うイベントということで、川染喜弘が自身とアートランドの歴史・関係性をラップし、イベントの成功を祈る『盛り上げ』のような演奏が展開される。サンプラーから祭囃子の音を流しながら、「あ、そーれ!」と合いの手をいれるミニマル・コール&レスポンス。電子音によるノイズ、テレコからの音、ビデオカメラのアウトプットを利用したボイスパフォーマンスの音などを重ねることで、祭囃子に不規則さが加えられる。「かっぽれかっぽれ!」「もういっちょ!」など、祭りで使われる常套句を挟み込みながら、最後は「アートランド」コールにてライブ終了。



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